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ここから、手を伸ばす事は出来ないのに。
名前を呼ぶ事も許されないのに。
彼女のことが頭から離れてくれない。
ライブが終わってからなら、話し掛けられるかな。
来てくれたこれだけの人の中から彼女を見つけ出すなんて、出来るわけがない。
次の衣装替えの時にスタッフさんに言う?
昔の写真はあるけれど、それだけで見つけられる。
可能性は0に近いだろう。
そんな賭けに出たくない。
もう二度と会えないのなら、話せなくていい。
僕を知ってくれていて、僕に会いに来てくれた。ただそれだけで満足だから。
それでも、また何処かで会えるんだとしたら。
それならばいっその事、今日久しぶりだねと話したい。
出来ないことよりも、少しでもある可能性に賭けてみよう。
衣装替えのタイミング、近くにいたスタッフさんに上手側、3列目辺りにいるこの女性をライブ後楽屋に連れてきて欲しい。とスマホを渡し頼み込んだ。
「どうしても、会いたかった人なんです。
危険だ、とかそんなこと分かってます。
そんなの承知の上です、スタッフさん同伴でもいい、少しだけ話したいんです。
お願いします」
そう言って頭を下げると、スタッフさんは少し困ったような顔をしながら、分かりました。とインカムで全スタッフに情報を回し、僕のスマホは、近くのスタッフさん達がじっと見つめていた。
もしかしたら、本当に会えるかもしれない。
そんな淡い期待を抱えて、もう一度ステージに立った。
「女性の名前は……?」
「あぁ、絢野A、です」
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作者名:M。 | 作成日時:2019年9月26日 22時