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相も変わらず夢見は最悪。
お世辞にも良いとは言えないコンディションの中、僕のワンマンツアーは幕を開ける。
人の前に立つのは怖かった。
いじめられた過去は簡単に拭えない。
それでも友人達が支えてくれた。
リスナーのみんなが応援してくれた。
どこかで彼女が見てくれていると信じてた。
だから、今僕はこうしてステージに立てる。
幕があがったワンマンライブ初日。
沢山の白のペンライトに囲まれて、歓声を浴びて。
生きていて良かった。と心の底から思えた。
視線をずらして周りを見渡せば、目に止まった少し暗めの茶髪。
前から大体3列目。
上手側にいる彼女は、何度も何度も何度も。
嫌いになりそうなほど夢に出てきて、嫌いになれない彼女に酷く似ていた。
周りと同じようにペンライトを持つ彼女。
ここに居る全員よりも静かに見てくれているその子は、僕を見てこっそりと笑った。
間奏の間の一瞬。
その一瞬に僕は唖然としてしまって、歌詞が飛ぶ。
笑顔で確信した。
アレは間違いなく、僕の大好きな、最愛の人だ。
慌てて歌い出して、何も無かったかのように歌って。
それでも頭の中も心の中も、全部全部君でいっぱい。
まふまふのこと知ってくれてた?
曲、聞いてくれてた?
ライブに、来てくれた。
何年ぶりかの再会。
髪の色は変わっているし、顔立ちは大人びいていた。
それでも、雰囲気も笑顔も昔と変わらない。
不器用そうでいて、それでも幸せそうな笑顔を僕は忘れたくても忘れられなかったんだ。
「ほんっとにごめんね?!歌詞飛んじゃって!!
いや、情けない!ほんと情けない!自分が作った癖して情けない!!!」
周りを見渡す振りをして、彼女を視界に入れると、チラチラと前の人たちの隙間から見える笑顔。
笑ってくれてる。
それだけで、僕は何だか幸せになれた。
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作者名:M。 | 作成日時:2019年9月26日 22時