蒼く、染まれ Y.J（２） (ページ34)

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その年のバレンタインは、平日。

私は前の日の夕方、家へ帰る途中にスーパーに寄った

神宮寺くんのことを考えながら、ふらふらと陳列棚をさまよう

作るものは、チョコケーキ

チョコレートフェスティバルに2人で行った時、君が1番おいしいって、言っていたから。

材料を選ぶ過程から、もうすべてがどきどきする

喜んで、くれるかな。

ふわふわした心で、カゴに入れた材料を見下ろした

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家に着いてから、作業に取り掛かる

なんとなく、緊張して手が震えてしまった

「………ふぅ、」

小さく深呼吸。

落ち着け、落ち着け自分。

そう自分に言い聞かせるけど、心が今すぐにでも、君の元へ飛んで行きそうで。

金属のボウルに映った私の表情

ゆるりとだらしなく上がった口角に気がつく

私相当、君のことが好きみたい。

ただ喜ぶ、その眩しい横顔を想像して、

せっせと手を動かし続けた

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数時間後、

「………やっと、」

できた。

君のように甘く、とろけてしまいそうなチョコケーキ。

見た目も、味見した時の味も、いつも以上によくできていて、思わず微笑んだ

ラッピングに買ってきたのは、

蒼色の、小さな箱

スーパーのバレンタインのコーナーで、隅の方にひとつだけあったそれを見た時、

あ、これだ。

そう思って、急いでカゴに入れた

小さなその箱に、ひとかけらチョコケーキを入れて、

潰してしまわないように、気をつけてリボンをかける

今までお菓子作りはするけど、人にプレゼントすることはほとんどなかった

でもそんな数少ないプレゼントの中でも、

今回が1番、ラッピングに力を入れた気がする。

前回のクッキーより、少しでも多くの気持ちを込めて。

君に、届くといいな。

私のこの、大切な気持ち。

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夜寝る前に、冷蔵庫に入れた蒼い箱をもう一度だけ確認する

明日、渡せるんだ。

残り物のおかずの間から、爽やかな私の心が、顔をのぞかせていた

きっと。

私はこのバレンタインを、忘れない。

忘れられないだろう。

直感でそう思った。

早く学校で、君に会いたい。

今までの何千倍も強く、そんなことを思う夜

その日はベッドの上で、

なかなか眠りにつけなかった。