口癖 -3- (ページ8)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:51,474 hit

100 / 新しい空間ページ8

side S

上辺だけ、なんて

そんなことはしたくないけれど

今日の自分たちは、明らかに上辺だけだった。

兄さんの家に着き、リビングまで通してもらった今

目の前の彼が、立ち止まる。

ポケットに手を突っ込んだまま、

大きな溜め息が落とされた。

「…………戻ってる気がする、」

誰も言えなかったそれを

上辺だけに隠して言えなかったそれを

彼が、零した。

彼に、零させてしまった。

「……ごめん、黙ってて」

「ふふ、なんで翔ちゃんが謝るの」

「最初、変って思ったの俺だし…、みんなに確認させるみたいなことして」

「ううん、……みんなで確認しなきゃいけないことだったよ」

振り返っていつものように笑う彼に、救われる。

いつも、大事な場面を背負ってくれる。

ごめんねと言ったって責めもしないし

受け取ってはもらえない。

だからこそ、向き合うくらいはしなければ。

本気で、ちゃんと。

「どうして言わないのか、考えないと」

「うん。いつ戻ったのかも…わかってない、」

隣のふたりがそう言う。

向き合わなければいけない。

怖いのは同じなのに背負ってくれた彼の、隣で。