131 / ″俺ね、あの人のこと″ ページ39
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そっと背中に手を添えたあの瞬間は
いつかの楽屋でもあった。
僕が記憶喪失になるよりもずっと前の、
もしかして、って勘づいてから少ししてからのこと。
仕事のことで落ち込んでたニノを
翔くんが背中を摩りながら慰めてた。
そのときのニノの表情が焼き付いてる。
真白な肌が紅く染まって、
自分の手をきゅ、と戸惑いながら握って
でも、落ち込んでいた表情が少し和らいだ。
そのときのニノの表情を、ずっと覚えてる。
あぁ、幸せなんだなって嬉しくなった。
だからこそ、さっきの病室での瞬間に
ニノの表情が変わらなかったことが少し寂しかった。
今までだって、ずっと観察してきたけれど
病室でどんな瞬間があってもニノのあの表情は見られなかった。
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” 潤くん、”
” 俺ね、あの人のこと ”
” 翔ちゃんのこと、好きなの ”
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ニノの中に、
あの表情も、あの感情もない。
彼は、憶えていない。
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” 気が付けば、って感じでね ”
” おかしいとは思ってたんだけど ”
” なんかもう、無理でさ ”
” 諦められなくて、ふふ ”
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あの日の屋上で
優しく微笑んで、少し苦しそうに話す姿が
脳裏から消えない。
僕は、貴方だから話したんだよ。
貴方のその気持ちを、貴方自身が少しでもステキだと思えるように
それなら僕のこの身体のことを使ってもいいと思えたから。
「……………先生、………結果は…？」
僕が話した僕自身のことを忘れていたって
そんなことどうだっていい。
彼の中に確かに在ったあの感情が、
無かったことになることが、何よりも悲しい。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年5月22日 18時
