119 / 知るだけでもいいんじゃない？ ページ27
side S
「………ごめん、話そうって言ったの僕なのにね」
一方的に話しちゃった、と
彼はニットストールを羽織りなおす。
「ううん、聞けてうれしいよ」
相葉くんの言葉に
俯き加減だった彼の顔が上がる。
「…………話したの、初めてでさ」
「うん、」
「世の中の性の考え方は学んできたから、きっとそう思われることもわかってたのに」
「うん、」
「なんか、ムキになっちゃう。そうじゃない、ってわかってほしくなっちゃう」
珍しく、自分のことで困惑してる。
はらりと落ちてきた髪を耳に掛ける指が、戸惑いを表してる。
彼が俺たちに魅せてきてくれたのは
俺たちならと思ってくれていた部分もあるんだ。
「ムキになってよ」
温もりのある、ニノの声が舞う。
不思議そうな潤の表情が、浮く。
「貴方はどっちも知ってる。性を分ける考え方も、分けない考え方も」
「でも俺らは片方しか知らない」
「だから貴方がムキになってくれたら、俺らはもう一方も知れる」
「それにムキになってる今こそ、”僕は僕” じゃん」
受け入れられるかどうか、
そんなことを考えていた理由がわからない。
まだそこまで達していないのに。
聞いてもいなければ、俺らの刷り込まれた価値観に気づいてもいない。
俺らはもう子供じゃない。
与えられた価値観だけを持ってちゃいけない。
考え方や思いを聞かずに判断しちゃいけない。
「………傷つけるのはきっと、僕も同じだよ」
「うん、覚悟してるよ」
誰もが口にしたそれに、
ふふ、と綺麗に微笑んだ。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年5月22日 18時
