112 / 夜の世界へ ページ20
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静まり返る病室で
青黒い空を眺めて、夜を感じる。
何かをしようと思うけれど、
もうすぐ先生が来る。
でも、うずうずする。
だって、僕の好きな夜なんだもん。
「想像なら出来るかな、」
ベッドから降りて、
広い病室にひとり、夜空へ身体を向けて立つ。
そっと目を瞑る。
もう数ヶ月帰っていない家を、脳内に広げる。
寝室から繋がる、他の部屋より少し小さい部屋。
扉を開け、数秒眺める。
両手を広げて、すぅ、っと息を吸う。
目の前になくても、脳内の僕と同じ動作をすれば
吸いたい空気が身体中に広がる。
この空気が好き。
素の僕に戻してくれるこの空気が、僕はとても好き。
今日はどれにしよう。
どんな僕になろう。
ここで僕は、何にでもなれる。
「おーい、潤」
「………………今いいとこだったのに…」
「キミが呼んだんでしょう」
ここからだったのに。
引き戻された。
「なに、想像で楽しんでた？」
「うん、」
「通院って形にも出来るけど断ったの潤でしょ」
「わかってるよー、だってもうちょっとここに居なきゃいけないんだもん」
ソファへ移動しながら、
記憶が戻ったと先生に話したときのことを思い出す。
体調に何の問題もないから、すぐに通院に切り替えられるって言われた。
喜ばしいことなんだけど
僕はそれを、断った。
「で、話って？」
記憶喪失の僕には、すごく丁寧に接してたのに
もういつもの先生に戻ってる。
嬉しいんだけどさ。
記憶が戻ったって言ったとき、すごく喜んでくれたし。
「あのね、質問がある」
「質問？」
「うん。お願いに応えてくれるかどうかっていう質問」
「どんなお願い、」
「ううん、今日はその質問だけだよ」
怪訝そうな顔をする。
お願いの内容次第で変わる、って言いたいんでしょ。
わかってる。
「医者の俺が従順になると思う？」
「それをわかって聞いてる」
「………何に関係することなの、」
「もちろん僕だよ」
沈黙が流れる。
眉を顰めて、じっと考えてる。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年5月22日 18時
