23 / 透明人間 ページ25
side N
1時間ほどかけて来た理由なんてわからない。
ただ、気分。
「夜の海ねぇ……、……ひとりで来るとこじゃないね」
独りでに呟いたそれは
黒い海に呑み込まれるように消えてゆく。
風の嘲笑が、
丸太に座る、俺の頬を撫でる。
「………………潤くん、」
みんなが居たあの車内では、確証がなかったから言わなかったけど
潤くん貴方、俺らが来ること先生に伝えてたでしょう。
それと同時に、黙ってるようにも伝えたんだよね、きっと。
先生には全て話したの？
それとも、大きい病院じゃなくここを選んだってことは
先生にしか分からないことがあった？
「……………………生い立ち？」
ぼんやりとした視界が、
突然はっきり見える。
先生は昔のことしか知らない。
手紙でしか潤くんとやり取りをしてなかった。
それなのに突然来て先生に聞くことなんて、
先生が答えられることなんて
生い立ちしかないんじゃないの？
「生い立ち……と、書けない……こと、」
傍に落ちていた枝で砂に書いてみる。
もちろん、何の関係性も浮かばない。
ダメだ、書いたって無駄。
わかるわけが無い。
考えも全て消すように、靴で砂を擦っていると
傍に、砂の線。
「…………………っ、これ」
【きっとだめだ】
間違えるはずない。
俺の目に狂いはない。
あの部屋で見た、あのメモとあのカレンダー。
その字と同じ。
震えた文字。
あの日見た文字よりも、
さらに酷くなって、原型を留めていない文字。
「……………っ、じゅんくん…！」
夜も更けた頃合いに似合わない叫び声は
虚しくまた、黒い海に呑み込まれる。
酷くなってるじゃん。
治ってないじゃん。
それを治したいんじゃないの？
だから半年ほしいんじゃないの？
もう、4ヶ月経ってるのに。
「………………居るんじゃん……」
自分が居る場所に
彼の痕跡がある。
彼は確かに居る。
この地だって踏んだ。
きっと同じ場所に座った。
それでも
姿は見えない。
まるで透明人間みたいだ。
存在はあるのに
存在が見えない。
【待ってるから】
そう残し、
その場を後にした。
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ヲ伽 -otogi-(プロフ) - 楓さん» わわわありがとうございます( ; ; )めちゃくちゃ嬉しいです、、！ (2020年8月17日 23時) (
レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
楓(プロフ) - ヲ伽さんのお話、本当に好きです(; ;)更新楽しみにしています！ (2020年8月17日 22時) (レス) id: 8b170ae239 (このIDを非表示/違反報告)
ヲ伽 -otogi-(プロフ) - 嵐華さん» いつもありがとうございます( ; ; )嬉しいです、、！ (2020年8月10日 2時) (レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
嵐華 - ヲ伽さんの紡ぐ文章に惹き付けられます。大好きです。次の更新も待ってます！ (2020年8月10日 1時) (レス) id: fc50a29d39 (このIDを非表示/違反報告)
ヲ伽 -otogi-(プロフ) - ナナさん» めちゃくちゃ嬉しいです、、！ありがとうございます´`*！楽しんでいただけて幸いです(*^^*) (2020年8月8日 20時) (レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヲ伽 -otogi-
| 作成日時：2020年7月6日 19時
