beg.46 / 侵食 −A ページ3
彼のマンションに着き、
車から降りてインターホンを押し
開いたエントランスを走り抜け、
エレベーターに乗り込み
7階に着いてから、彼の部屋へと走り
あがった息を整えないまま、
開けてくれていた扉を開けて
彼が居るであろうリビングへ、足をむける。
無駄に足が絡まるのは
異様に、嫌な予感がする所為。
「…っ松潤！」
リビングに繋がる扉を開けると
そこには、
ソファを背凭れにして床に座り
上半身に自分の上着を掛けるようにして
俯く彼が居た。
俺の声に振り向いた彼は
視界に俺を捉えると
静かに、ポロポロと涙を流す。
「……遅くなってごめんね」
言葉が見つからず
それだけ言って抱き締めると
顔を俺の肩に埋めて、首を横に振った。
数分様子を見てから、
落ち着いてきたのを見計らって体を離し
じっと目を見つめ、焦点が合っているか確認してから
何があったかを尋ねる。
「…体、見せてくれる？」
“ きず、が ”
電話越しのこの言葉のおかげで
また傷を付けられたということは分かってるから
その場所はきっと、今隠している上半身だろう。
そう思って尋ねると、
彼は少し躊躇った。
「…大丈夫だから」
上着を手放したくないというように、
ぎゅ、と上着を握っている彼の手に
自分の手を重ねると、ユラユラと揺れる瞳と
目が合って
それを見つめると、
上着を握る手の力を弱めた。
「ありがとう。ちょっと、ごめんね？」
そっと上着に手を掛けると、
チラリと見える傷跡。
ただ、それは一つじゃなかった。
「……なに、これ…」
上着を全て取ると
上半身の体中にある、痛々しい傷跡。
居場所のなくなった彼の両手は
彼の目を覆った。
「こんなの…っ」
秋らしい生温い風が
何も言えない俺を嘲笑うように
部屋中を舞う。
「……おれ、…っ」
そんな中
彼が、目を覆う両手をそっと外して
口を開いた。
「……俺、…アイツに、壊される…ッ」
彼が大事だと言った、“ バランス ” と “ 共有 ” 。
それが歪んだ今
どちらかが、
ジブン自身に侵食され
壊されていくんだ。
耳に届いた、彼の悲痛な叫びは
俺の心を抉るのに、充分だった。
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ヲ伽 -otogi-(プロフ) - ともさん» 読んでいただきありがとうございます！黒くて闇が深くて、キレイなだけじゃないお話ですが、そこから何かを感じ取っていただけていたらうれしいです´`*。楽しんでいただけてよかったです(*^^*) (2021年3月14日 13時) (
レス) id: a5fdc137e0 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - とてもミステリアスな作品で簡単に「凄い」と一言で言い表せない。ただ純粋で優しい相葉ちゃんを騙してた？と思うと心が痛い(>_<)闇が深すぎて…理解し難い事だけど〜面白かったです。 (2021年3月14日 9時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
ヲ伽 -otogi- (元つむぐ)(プロフ) - なるちゃんさん» コメントありがとうございます(；；)！描写や人の複雑さが伝わったのはすごく嬉しいです(；；)感想ありがとうございました！これからもよろしくお願いします(*^^*) (2019年8月27日 20時) (レス) id: cfd42291d9 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - うーむ、すごい作品に出会いました。人物の描写がまるで映像を見ているかのようです。カッターナイフのシーンは泣けました。人ってなんて複雑にできているのでしょうね。ありがとうございました！ (2019年8月24日 0時) (レス) id: f390aacf74 (このIDを非表示/違反報告)
ヲ伽 -otogi- (元つむぐ)(プロフ) - Smilepug0923さん» コメントありがとうございます！嘘を咲かせてから( °_° )ファンだなんて嬉しいです(；；)辻褄が合っていると言って頂き安心出来ました！( 笑 )半年間、ありがとうございました！どうぞこれからもよろしくお願いします(*^^*) (2019年8月22日 18時) (レス) id: cfd42291d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヲ伽 -otogi- (元つむぐ)
| 作成日時：2019年6月1日 20時
