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第二十一話:図書館の邂逅 ページ24

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静かな場所、というのは少なからず学園に何箇所かあるものだ。

屋上、植物園、天文台……知識の宝庫、図書館もそれらに数えていいだろう。

人の出入りが少なく、生徒が授業を受ける棟から幾らか離れたそれらは、喧騒から逃れるのにうってつけである。



中間考査が差し迫っているというのもあって、図書館はいつも以上に静まり返っていた。

ちらほらと自習目的で訪れる人間も居るようだが、話し声はせず、ただ紙にペンを走らせる音だけが微かに響いている。

図書委員長である江見、もといエーミールは書架整理の為、図書館を訪れていた。

黙々と作業をしていた最中、ふと顔を上げ、図書館の出入口である扉に目をやった。

キィ、と軋んだ音をたてて開かれた扉から深紅が覗く。腕には教材が抱かれており、自習目的で此処を訪れたと分かる。葡萄色の瞳は図書館をぐるりと見渡した後、比較的扉に近い本棚に居たエーミールをその瞳の中に捉えた。

心做しか、どきん、と胸が跳ねる。

彼女は深紅の髪を揺らしながら、エーミールに歩み寄った。

『そういえば君は図書委員長だったな』

そう言って微笑む彼女にまた心臓が鳴った。

「え、えぇ…生徒会長は自習ですか?」
『あぁ、そんなところだ。普段は家でするんだが、たまには良いだろうと思ってな。それに……』

また葡萄色がエーミールを捉える。

『解らない所があったら君に教えを乞うことが出来るからな』

ぎゅぅっ、と胸が締め付けられるような感覚に、今度は気付かない振りを決め込んだエーミールは少しどもりながら言葉を返した。

「そ、そんな、生徒会長に教えるなんて……」
『なんだ、嫌か?』
「そういう訳ではありません…!」

思わず大きめの声を出してしまったエーミールは咄嗟に口を塞いだ。目の前の彼女は表情一つ崩さず、彼の言葉を待っていた。

「……貴方は優秀なお方です。完璧な貴方に私が教えられる事なんて、きっとありません」

エーミールがそう言うと、暫く時間を置いて小さく吹き出す声が聞こえた。彼は真珠色の瞳を瞬かせ、小刻みに揺れる深紅を見詰めた。

『ふ、君がそんな事を言うのか』

常に凛々しげに吊り上がっていた眉を下げて彼女は笑う。


───あぁ、この人は、こんなにも年相応の顔で笑うのか。


どこかぼんやりとそう思っていると、彼女は目尻に浮かんだ涙を拭ってエーミールと向き直った。

『私からしてみれば、君の方が完璧だと思うがな』




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第二十二話:深紅とミルクティー→←第二十話:主人公再び



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鶴木(プロフ) - しおりんさん» ありがとうございます! (2020年9月13日 13時) (レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)
しおりん(プロフ) - あ″ぁ好き!シナリオ面白いです(*´∇`*)本当に!いい展開! (2020年9月12日 23時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鶴木(プロフ) - Tさんさん» ひゃー!ありがとうございます!!女王様主人公大好きなので動かすのが楽しいです……更新頑張ります!! (2020年8月9日 18時) (レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)
Tさん(プロフ) - 主人公の性格と世界線が凄い好きです…! もう、好きです!(2回目)無理しない程に頑張って下さい!応援しております〜、 (2020年8月9日 14時) (レス) id: 0fb9fed1ca (このIDを非表示/違反報告)
鶴木(プロフ) - #よにん。@変人系カップル&シトラ教教組さん» ありがとうございます!頑張ります! (2020年8月5日 16時) (レス) id: 9ab679ed16 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鶴木 | 作成日時:2020年7月20日 22時

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