story17☆ ページ19
1ヶ月くらい経った頃かな。
あれは忘れらんねぇな。
暑い夏の日だった、ちょうど今日みたいな。
ただの小さな擦り傷でも来るような、常連みたいな患者がいたんだけどね。
めっきり来なくなっちまったから心配になって家へ行ってみたんだよ。
いつもならドア叩いた瞬間に飛び出てきて、今日はあそこが痛いだの薬がきれただの言うくせに、その日は全く返事がなかったんだ。
どこか出掛けてるのかなと思って帰ろうとしたとき、突然叫び声が聞こえた。
雄叫びのような、犬の遠吠えのような、気味悪い声だったよ。
急いでドアをこじ開けて入ったら、中は荒れ果てていて酷いもんだった。
壁紙は破れ、家具はなぎ倒され、棚からは物が飛び出て床じゅうに散らばっていた。
そいつは、狂ってたんだ。
しばらくは唖然として、ただ突っ立ってることしかできなかったよ。
そしたら今度は、割れた食器の破片をこっちに投げつけてきたんだ。
もうそこからは記憶がないけど、きっと必死に逃げたんだろうね。
そのあと、あいつはその病気の治しかたを探すとか言って隣村へ出掛けていったよ。
それで、病気の研究をするために開いた病院が、あの白い塔のはじまりってわけさ。
そのころはまだ小さな小屋だったんだがな」
アリシア「···っ」
ヴィトル「あぁ、無理に感想を言おうとしなくてもいい。
ただ聞いてほしいだけなんだ。
それに、まだ続きがあるからね。
そのあと、あいつは素晴らしい薬を発明した。
おかげで、この村の人はみんな救われたよ。
それから病院はどんどんでかくなって、今じゃあお城みたいだ」
アリシア「じゃあ、お兄様は病院に住んでいらっしゃるのですか···?」
ヴィトル「あぁ、家から病院に移動する時間がもったいないってね。その間に1人でも命を救うんだって。
それにな、こんな豪邸を手に入れても、やっぱり故郷は忘れられないって言って、さっきの診療所もかけもちしてるんだぜ。
どうだ、いいやつだろ?自慢の兄貴だよ」
そう言って、ヴィトルは白い歯をみせて笑った。
けれどもその目元には、あの、不気味なほどの静寂に包まれた村にぽつりと残された家を思い出させる、深い深いしわが刻み込まれていた。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ&しろーん x他1人 | 作成日時:2018年2月15日 15時