弟が0人 ページ1
お前、飲みすぎじゃね？ 葛葉は、隣で何故か幸せそうに潰れている相方ーー叶にデコピンをくらわしながら呆れた声を出す。
デコピンをされた方は、いて、と少しだけ顔を顰める。
現在、深夜2時。葛葉と叶の2人は、イベントの帰りに某所の居酒屋に寄って、慎ましながらも打ち上げをしていたのだが。
「お〜い〜」
葛葉は更にデコピンをくらわせる。
「誰がお前を家に連れてくんだよ〜。俺ヤダかんね？」
早く帰りたいんだけど、って聞いてます？ 叶さん？ 叶くん？
「かなかな？」
「やめろ殺す気か。死ぬぞ」
ん、と言いながら、叶は1枚の紙切れを葛葉に渡す。
葛葉がなんだよこれ、と聞く前に「そこに電話して」とだけ言った。そしてそのままロトを抱えて寝始める。
テメェ……と怒りを露わにするが、ため息をつき、紙切れに目を通す。
紙切れーー明確にいえば名刺には、こう書かれていた。
特定非営利活動法人Your House スタッフ 山口A
そう書かれている下に、10桁の数字が並んでいる。ーー恐らくはこれが電話番号なのだろう。
葛葉はスマホを取り出し、書かれている番号をおし、電話をかける。
プルルル、プルルル、と相手を呼び出している間、時計が目についた。
電話しろっつったって、この時間じゃ誰もいねぇんじゃねぇのか？
やはり、自分が叶を背負って彼の家まで運ぶしかないか……。
「はい、こちら特定非営利活動法人your houseの山本です。本日はいかがされましたか？」
葛葉が耳からスマホを離し通話を切ろうとした瞬間、女性の声が流れた。
やべ、と葛葉は再度スマホを耳につける。
「えーと、困ってんのは俺じゃないんスけど、叶がここに電話しろって……」
「……叶様、ですか」
あからさまに迷惑だと、電話の向こうの声はトーンが落ちた。
「少々お待ちください、担当の者に繋ぎます」
葛葉が、あ、はい、と言う前に音楽が流れ始める。
明らかに迷惑がられていんじゃねぇか、と葛葉は卓上で幸せそうに寝ている相方を見やる。
3分程した後だろうか、急に音楽が途切れた。
お、と葛葉が言うと同時に、電話の向こうから複数の声がした。
曰く、ーー「本当に叶なんですか！？」「ええ、弟さんだと言ってましたよ」
１つは息が切れていて、元々その場にいなかったことがわかる。その息が切れている方の声が、今度はこちら側に語りかける。
「叶！？」
「いっやぁ、俺は叶じゃないっすね」
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作者名：ドリーム⭐︎トン | 作成日時：2022年8月1日 11時
