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マスクにニット帽、おまけにサングラス。
店員さんが気付いたら即通報もんな出で立ちに、思わず立ち読み中の雑誌を持ったまま立ち尽くしてしまう。
黒ずくめの男──山田も、おれが気付いたことに気付いたみたいで、自動ドアの前から少し離れて小さく手招きした。
やる気のなさそうな店員が生あくびをしてるのをちらりと見て、そそくさと店を出る。
途端にまた夜風が耳から鼻から口から身体中に冷気を運んできて、亀みたいに首を縮めた。
「マジで来たんだ…」
「そりゃ来るよ」
開口一番のとぼけたおれの言葉に、山田は呆れたように肩をすくめる。
「徒歩のくせにマフラーしてないの?」
「大ちゃんちに忘れてきた」
「……ぽんこつ」
可愛くない悪態つきながら、自分のマフラーをおれに巻き付けるから、「そんなばかな」と謎の感想が口をついて出てしまった。
「いいよ、山田が寒いじゃん」
「おれは鍛えてるから平気」
「筋肉便利すぎねえ?」
「いーの。おれ、こういうことしたいタイプだから。黙ってされてて」
そう言われれば、確かにって素直に受け入れてしまう。
納得したおれに山田のほうが逆に納得いかなそうな顔して、
それでも「行こ」と歩き出すから慌ててついていった。
「車じゃないの?」
「おれもちょっと飲んでたから」
「……アイドルが夜道ふらふらしていいんだっけ」
減らず口は生まれつきみたいなもんだから仕方がない。
自分でもさすがにこの態度はどうよって思わなくもないけど。
やっぱり言っちゃったもんは仕方がないし。
だから根が生真面目な山田とはちょっとソリが合わなくて、いっつも怒らせてばっかだったんだけど……。
歩幅の関係ですぐに追いついた山田の顔を、そーっと覗き込む。
案の定、眉間に皺寄せて「ほんと伊野尾ちゃんてさあ……」ってため息つかれた。
そうだよな。
そりゃ寒いなか迎えに来て、こんなこと言われたら腹立つよな。
なのにさ、なんでこの流れでちょっと満更でもなさそうな表情になんの?
「……やまだ」
怪訝な内心が声にも滲んでたのか、山田が気まずそうに頭をかく。
ニット帽がずれて、飴色の前髪がさらさらとこぼれ落ちてきた。
前髪の隙間から覗く瞳は、また星を宿してきらめいている。
「ごめん、いまちょっと浮かれてる」
白い吐息がふわふわと立ち上る。
「伊野尾ちゃんのこと迎えに行けるような関係になりたいって、ずっと思ってたんだ」
きゅっと瞳を細めて、山田は笑った。
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ひとみ(プロフ) - 泣くないのちゃんもこれも大好きすぎて3ヶ月に1回くらい読みにきてます笑 この続きもめちゃくちゃ気になるので続きをお願いします!! (2021年11月27日 17時) (レス) @page36 id: e39657dd30 (このIDを非表示/違反報告)
荒川 - めちゃくちゃ好きです!!!続きをお願いします泣 (2021年10月26日 5時) (レス) id: f6705dec1d (このIDを非表示/違反報告)
inuneko(プロフ) - どうしよう!キュンキュンしすぎて叫び足りないんですけど!好きです!あと10回見てきます!!*\(^o^)/* (2020年2月6日 23時) (レス) id: 8271c7e9a0 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ(プロフ) - こんばんは。いのちゃんが山ちゃんを好きになってる感じでニヤニヤしちゃいます。早くいのちゃんが恋に気付くといいなーと思ってます。 (2020年2月6日 23時) (レス) id: 1d86e2ca18 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - さくさん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけてなによりです!これからも更新がんばりますね! (2020年2月6日 22時) (レス) id: 8c441c3d0c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あまなつ | 作成日時:2020年1月5日 12時