[めいこい]書生と狂気の美術館[ib] (ページ2)

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それぞれの目ページ2

人力車に乗り込み行き先を告げた春草さんは、すぐさまスケッチブックを開いて隅に日付を描いた。道中に何か美しいモチーフでもあったのだろうかと思うとそうではないらしく、大人しく座っていた。スイッチはオフのままだ。

「菱田は向こうに着いたらすぐにモチーフを捉えて描きたいらしいから。あんた、邪魔しないようにね」

謎を見透かされたようだった。

「……まあ、できれば話しかけないで欲しいけど。でもストッパー役は頼んでおけって鴎外さんが……何のことだか」

鴎外さん……私にストッパー役なんて務まるんでしょうか。本人は自覚してないようだし、話し掛けられたら怒るんじゃないかな、と少し不安になる。

いや、でも美術館なんだから急に口説き始める春草さんをそのままにしていてはいけない……！

覚悟を決めて、密かに拳を握った。

「ああ、そうだ……僕にもなるべく話しかけないで。あとウロチョロしないでよね、はぐれたら帰れないよ？アンタみたいな愚図は」

「あ、それは、はい。でも鏡花さんも絵に熱心だなんて意外です」

本当は春草さんと知り合いだったのにも吃驚していたくらいで。

「僕は次の作品のモチーフ探しに決まってるだろ？不安を掻き立てる幻想的な美しさ……素晴らしいじゃないか！」

……鏡花さんにもスイッチあったっけ……

とはいえ二人共確実な目的があって行くのだから、邪魔をしないようにしないと。

私は……

「あ、えっ」

「……何」

……今そこに、物の怪みたいなものが……とは言えない。大体何で、朝なのに。

「……気のせいです」

お茶を濁して、背筋を伸ばした。