金曜日、一緒にご飯を食べるだけ。【そらる】

鮭のムニエル ページ7

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『午前中にスーパーで生鮭2切れ、お願いします。仕事終わったら取り行くから』


午前8時、起きたばかりの眠たい目を擦って最初に見たのは、そんな内容のメールだった。


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平日の午前、私服でスーパーをさまよう学生じゃない年齢の男というのは、存外目立つものである。それが1人であれば尚更。

正直、Aの頼みでもなければ買い物になんて行かない。確かに以前の食生活は反省しているけど、まだ自炊をしようとまではならないからだ。金曜日以外、最近はもっぱら出前と外食。店や配達員にはもう名前を覚えられているんだろうな。

あいつが手料理を振る舞ってくれるようになってから、金曜日が楽しみになった。申し訳なさもあったけど、たまにデザートや度数が低めの甘い酒を持っていくと嬉しそうな顔をしているからそれでチャラだ。

帰りに新作のコンビニスイーツでも買ってやろう、とカゴを片手にレジへ向かった。


＊＊＊


「お疲れ〜、今日鮭の塩焼きとか？」

「ううん、今日はちょっと新しいの作る」


鮭を受け取り、頭の上にハテナを浮かべる彼方くんを連れて私の部屋へ向かう。あ、と小さな声に振り向いた。


「あのさ、Aの部屋の合鍵もらってもいい？頼まれたものとかそのままAのとこの冷蔵庫入れられたら便利だし」

「あー、うん、いいの？」

「いいのって……俺が頼んでんだけど」


わー危ない、一瞬うっかり勘違いするところだった。この人は簡単にこういうことをしちゃうから悪い。


「……私だからいいけどさ、あんまり軽率に独身女性の部屋の鍵要求しない方がいいよ」

「そのくらい分かってるって。Aもあんま軽率に独身男性に部屋の鍵渡すなよ」


距離感、間違えたかなあ。

確かに、そろそろ鍵を渡してもいいかもしれない、とは思っていた。何度も部屋に呼んだり買い物を頼んだりしているから、私の部屋には簡単に入れた方が都合がいいだろう。


(でも、まさか自分から欲しいって言うとは……)


心の中で小さくため息をつき、猫のストラップがついた合鍵を彼の手に乗せた。

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