ハンバーグ ページ6
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定時上がりのいいところは、早く家に帰れるということだけではない。
金曜日のために毎日残業する私の仕事が終わるのは、7時半過ぎである。自宅近くのスーパーの特売品が売り切れるのが遅くて7時、30分も過ぎたら残っているわけがない。どうしても買いたいものは彼方くんに頼ったりもするけど。
そんな私に自由にスーパーを物色する時間が与えられる金曜日。簡単に言うと、テンションが爆上がりするのだ。
合い挽き肉が2パックもあるし、今日は絶対ハンバーグにしよう。消費期限間近じゃない、30%引きのシールが貼られていないお肉を買うのは久々で、私は終始にやにやしてしまった。
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「卵と、パン粉と、牛乳、玉ねぎ……ナツメグあったっけな……」
とりあえず材料を確認して、準備をする。まずは玉ねぎか。
玉ねぎのみじん切りは、涙さえ出なければ好きだ。涙が出ない方法は色々試したけど、私のガサツさ故か成功したことは1度もない。
せめてもの抵抗としてメガネで眼球を守り、ひたすらみじん切り。若干粗めに切った方が歯ごたえがあるしと自分に言い訳して、適当なところでやめておいた。
涙でぐずぐずになった目を洗い、玉ねぎを炒める。その間にお肉、卵、パン粉、牛乳と調味料をボウルに入れ、こねる。玉ねぎは飴色になったら冷まして、ボウルに投入。ナツメグは諦めた。
ハンバーグのタネを整形し(彼方くん用に大きいの、私用に小さいの、お弁当用の1口サイズを何個か)、空気を抜いたら油をひいたフライパンで焼く。火が通ったのを確認してお皿に盛り付けていたら、インターホンが鳴った。
「ごめんちょっと待ってて、今からソース作る」
「んー、ありがと。今日のご飯なに?」
「ハンバーグ。手洗って、ご飯盛って」
母親かよと声をあげて笑う彼に蹴りを入れ、ソース作りに取りかかる。
お肉を焼いたあとの油には肉汁がたくさん残っている。ここにウスターソースとケチャップを入れ、混ぜて軽く火を通すだけで美味しいソースに早変わりだ。
「……ほんとすごいね、何でそんなに手際いいの」
「慣れ。あとやる気かな。彼方くんはそもそも料理する気ないでしょ」
「Aが作ってくれるから困んないし」
……あれ、私もしかして彼方くんをダメにしてる?
私の戦慄をよそに、彼方くんは大きな口でハンバーグを美味しそうに頬張ったのだった。
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いつかのだれか。(プロフ) - 執筆お疲れ様でした。料理や登場人物の心理描写が好きで、ずっとお気に入り登録していた作品だったので更新されたこと・完結まで読めたこと、とても嬉しく思います。素敵な小説をありがとうございました。これからもお体に気をつけてお過ごしください🍛 (3月23日 0時) (レス) @page40 id: 0075fb22a2 (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 少しずつ三崎さんのペースで回復していってください。また三崎さんの素敵な話が見られるのを楽しみに気長に待ってます。 (2020年9月20日 8時) (レス) id: 0edccb8a0c (このIDを非表示/違反報告)
つばさ - 無理せずにゆっくりでもいいので体調を良くしていって下さい! (2020年9月19日 21時) (レス) id: 46296c987b (このIDを非表示/違反報告)
三崎(プロフ) - しおさん» ありがとうございます!無理せず体調を治していきたいと思います◎ (2020年8月23日 19時) (レス) id: 83ba49b51f (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - お知らせありがとうございます、どうか無理せず自分第一で暮らしてくださいね、こちらこそいつも素敵なお話をありがとうございました。早く回復しますように願ってます! (2020年8月23日 17時) (レス) id: 47ac21f61f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三崎 | 作成日時:2020年3月22日 0時