肉野菜炒め ページ5
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午後6時、いつもの時間よりだいぶ早くインターホンが鳴った。珍しい、というか私まだ帰ったばっかりなんだけど。
ガサガサとうるさいレジ袋片手に、彼方くんは部屋に入ってきた。早く来ることよりこのレジ袋の方がよっぽど珍しいか。子どもの成長に感動する母親の心境で彼を眺めていたら、何をしてるんだと言わんばかりの冷たい視線を返された。
「キャベツ、にんじん、ピーマン、小松菜……これ、どうしたの?」
「近所のスーパーで午前中限定で安売りしてた。Aこないだ野菜ないって言ってたじゃん、だからこれ使って」
「……!覚えててくれたんだ、ありがとう!」
せっかく彼方くんが野菜をいっぱい買ってきてくれたから……うん、今日は肉野菜炒めと小松菜のスープにしよう。
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「彼方くん、包丁くらいは使えたよね?にんじん半分を短冊切り、キャベツは……ちっちゃいし半玉をざく切り、ピーマン2個を細切り、できる?」
「できる。分かんなくなったら聞くわ」
「おっけー。手ぇ切らないでね」
せっかく人がいるんだから手伝ってもらわないとね。手早く作業を分担して、私はスープに取りかかった。
小松菜の泥を落として、根元を切り落とす。適当な幅に切りそろえ、ごま油をひいた鍋で炒めていく。
しんなりしてきたら朝沸かしたお湯を入れ、沸騰したところに溶き卵を投入、中華だしと塩で味を調えたら完成。
「……あれ、ちょっとA早くない?俺まだにんじん残ってるんだけど」
「彼方くんよりは慣れてるもん。あ、にんじんは他の2つと一緒にしないでね、先に炒めるから」
はいはい、の声を背中で聞き、私は冷蔵庫から使いかけの豚コマを取り出した。ちょっと多いかな……まあいっか。
1口大に切った豚コマ、にんじん、キャベツとピーマンを順番に炒めて塩こしょう。これくらいはできるようになってほしいものだけど。恐る恐るといった様子でフライパンを操る彼を見ていると、それも遠い未来のような気がした。
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「彼方くん、料理できる人と結婚しなね」
「……Aも高望みしすぎて行き遅れるなよ」
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いつかのだれか。(プロフ) - 執筆お疲れ様でした。料理や登場人物の心理描写が好きで、ずっとお気に入り登録していた作品だったので更新されたこと・完結まで読めたこと、とても嬉しく思います。素敵な小説をありがとうございました。これからもお体に気をつけてお過ごしください🍛 (3月23日 0時) (レス) @page40 id: 0075fb22a2 (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 少しずつ三崎さんのペースで回復していってください。また三崎さんの素敵な話が見られるのを楽しみに気長に待ってます。 (2020年9月20日 8時) (レス) id: 0edccb8a0c (このIDを非表示/違反報告)
つばさ - 無理せずにゆっくりでもいいので体調を良くしていって下さい! (2020年9月19日 21時) (レス) id: 46296c987b (このIDを非表示/違反報告)
三崎(プロフ) - しおさん» ありがとうございます!無理せず体調を治していきたいと思います◎ (2020年8月23日 19時) (レス) id: 83ba49b51f (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - お知らせありがとうございます、どうか無理せず自分第一で暮らしてくださいね、こちらこそいつも素敵なお話をありがとうございました。早く回復しますように願ってます! (2020年8月23日 17時) (レス) id: 47ac21f61f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三崎 | 作成日時:2020年3月22日 0時