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episode27 ページ29





一度、ちゃんとお礼がしたいと思っていた。
あの時、那田蜘蛛山で助けてくれたこと。
俺たちを信じてくれたこと。
会うのは三度目だというのに俺と禰豆子は助けられてばかりだった。


謝罪と、お礼を。
そう思っていたから、その姿を蝶屋敷で見たときに声をかけるよりも先に、思わず腕を掴んでしまっていた。
驚きで目を開くその人に、順番を間違えたと思いつつもそのままの勢いで口を開いた。

「もし良ければ少しお話をさせて頂けませんか!!」



縁側に座って、先日の礼を言って。
一対一で話をするのは初めてで、少し緊張してしまって何を伝えるべきなのか分からなくなってしまって。
「ごめんなさい」と「ありがとうございます」を繰り返す俺に、『その言葉は私なんかに言うべきじゃないから、ちゃんと言うべき相手にとっておいて』と。
彼女──茅ヶ崎さんは静かにそう言った。


茅ヶ崎さんからは俺や禰豆子に対する不信感や怒り、嫌悪の匂いは一切しなかった。

それが嬉しくもあり、不思議でもあった。



思えば、初めて会った時も茅ヶ崎さんは禰豆子に対して刀を向けることなく、それどころか寝ている禰豆子の頭を優しく撫でてくれた。
何年も鬼殺隊にいる彼女のあの時の行為がどんなに尊いものなのかを自分が鬼殺隊に入隊してから理解した。

『…なに?』


そう問われて不躾にも茅ヶ崎さんを見つめてしまっていたことに気づく。冨岡さんは何物にも染まらないような強くて深い青の瞳をしていたけれど、この人は澄み切った優しい御空色の綺麗な瞳を持っているんだな、と思った。


「瞳が、とても綺麗だなと思いまして」


そう言葉に出してから、とんでもないことを言ってしまったのではと内心慌てた。


けれど茅ヶ崎さんは不思議そうにぱちぱちと目を瞬かせてから、すっと俺の頬に両の手を添えてくるものだから、その整った綺麗な顔が近づいてきて、心臓がばくばくした。善逸がいたら、「うるさい!!」と言われてしまうほどに。


「あの…」

『…炭治郎の目は、赤い』


先ほど俺がそうしていたように、茅ヶ崎さんはじっと俺を見つめてくるから、もうどうしたらいいのかわからない。



『……顔も赤い』



それは、貴方のせいです。



もちろん言えるはずもないけれど。


そうしてしばらくした後、気が済んだのか茅ヶ崎さんはすっと手を引っ込めて何事もなかったかのように庭を見つめていた。




俺は、激しく脈打つ心臓を大人しくさせるのに必死だった。

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きなこもち(プロフ) - ひかるさん» 観閲ありがとうございます、とっても嬉しいです! (2022年5月8日 19時) (レス) @page50 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - すごく面白いです! (2022年5月8日 15時) (レス) @page25 id: 97f5eb0e61 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - いいさん» いいさん嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m。マイペース更新ですが頑張りますのでこれからも見ていただけたら嬉しいです! (2021年10月19日 15時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
いい - 一瞬で心鷲掴みにされました!応援してます!頑張ってください! (2021年10月17日 9時) (レス) @page47 id: ac051c4e24 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 凌雲さん» 嬉しいコメントありがとうございます!とても励みになりますm(_ _)m (2021年9月23日 10時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこもち | 作成日時:2020年4月5日 17時

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