中原中也に忠誠を誓った少女【文スト】

episode17 ページ19

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『ゔぅー、疲れた…』

備え付けのソファーに飛び込み、だらしなく四肢を放り出す


視界の端にあるクローゼットの前に置かれた 買って頂いた…というよりも押し付けられた服が入っている袋を見て 大きくため息をついた
──こんな事しても、意味なんてないのに



突如として行われた 第五回・エリス嬢&首領による大量すぎる大人買いは、店の服全てを買い上げることによって幕を閉じた。
無駄を嫌い、常に合理的に最適解を求めるくせに 何故こんな無意味で利益のないことをするのか。以前理由を聞いたけど、笑ってはぐらかされた。


『姐さんも、必要のない出費はするなって首領に云ってるけど 私の服を買う時は何も云わないんだよね…』

いや、寧ろ何処からともなく駆けつけてシャッターを切りまくってる気がする。


中也さんも、姐さんや首領に対しては頭が上がらないし、龍之介はそもそも関心がないからこの件に関して云えば、私に味方は存在しない



『…そろそろこのクローゼットも埋まっちゃうし、どうしよう』

ポートマフィア本部の拠点で与えられた部屋は 幹部の次に広い…といっても、あくまで執務室。仕事をするために与えられた部屋であるから、クローゼットはそこまで大きくない。
物理的な意味も含め いつクビが飛ぶかわからない中で新しいクローゼットを買うのも気が引ける。



…自分の家が無いわけではない。ポートマフィアに来て直ぐに 或るマンションの最上階の部屋を買い与えられた。



“今日から此処が君の家だ。好きに使い給え”

“……いや。此処は、いやだ…”


でもその部屋は 今も昔も使う気になれなくてずっと放置したまま。

かと云って、別の部屋を探す気にもなれず 今は執務室で寝泊まりしている。


数年前、私が家に帰らず此処で寝泊まりをしていると知った姐さんは問答無用で私の部屋に緊急工事をいれた。
そのお陰で 今までシャワーしかなかった風呂場にバスタブがつけられ、無駄に広い空きスペースにキッチンやら洗濯機やらが備え付けられ それまでの生活よりだいぶ暮らしやすくなった。


『…だから、今の生活に不自由はないけどね』


寧ろ 不自由がなさすぎて この満たされすぎた生活は少し怖いくらいだ。




“人間は、一度手に入れたものは自ら手放せない。自由を知ったら二度と 元の生活には戻れない”


昔、或る人に云われた言葉


『確かに、その通りかもね』



ぼそっと自嘲気味に吐き出された言葉は 誰にも聞かれることなく闇に消えた

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