08.左手の薬指 ページ8
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隣人。の二宮さんは
毎晩違う女の子を家に連れ込んでいて
仕事から帰った私は偶然にも玄関先で居合わせてしまった。
◯「カズくん。だれこの人？すごい見てくるんだけど…(笑)」
和「ああ、おとなりサン。どうもー」
にこーって、
ほら目の奥が全然笑ってない。
何見てんじゃ失せろって顔に書いてあるのが丸分かりで、この人のそういうところがこわい。
◯「へえ〜はじめましてえ〜」
甘い甘い声で私に挨拶してくれた茶髪のかわいい女の子は
二宮さんの腕に抱きついたまま離れようとしない。
「どうも…」
甘い甘い声の女の子は、香水の香りまで甘い。
昨日連れ込んでた黒髪でおめめぱっちりの女の子よりも今日の子の方がかわいいな、なんて
無意識に変なことを考えている自分に笑えてきた。
はやく部屋に入ろうよー、と女の子に急かされた二宮さんは
ドアノブに手をかけるのを途中でやめて
私の方を振り向く。
和「あ。今夜は壁に耳当てんなよ？」
きゃぴっと笑うこの男は、きっと部屋に連れ込む女たちのことなんて1ミリも興味なんてないんだろうなあって、ぼんやり思う。
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雅「へえ。おとなりさんねえー」
仕事を片手に私の話を聞いてくれた相葉さんは「いいじゃん、なんか楽しそうで」って笑う。
室内に珈琲の香りがふんわり漂う。
「この前はその人からトマトを貰ったんです。家庭菜園してるらしくて」
雅「トマト！(笑)」
トマト育ててる男ってどんなよと笑いながら
まあでも、と相葉さんが付け加える。
雅「引っ越しも無事終わったぽいし、良かったね」
「…はい。大野さんが色々手伝ってくれて」
雅「大野さん…ああこの前迎えに来てた子ね」
「あ、そうです。あの…」
雅「うん？」
ふ、と視線を落とすと。
相葉さんの左手の薬指の指輪がきらりと光った。
「あ、いや…流星くん。元気ですか？」
雅「流星？あーもう超元気！！最近パパって呼んでくれるようになってさあ〜」
そう嬉しそうに語る相葉さんは、たしかに父親の顔をしていた。
“流星くん”
は、一度だけ写真で見たことがある。
子犬みたいにくりくりな瞳が、相葉さんにそっくりだと思った。
もうすぐで1歳になるらしい。
そうなんですね、と返した私の声は。震えていなかっただろうか。
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作者名：星雪 x他1人 | 作成日時：2020年5月8日 1時
