鬼が出るか蛇が出るか (ページ5)

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05.本当に… ページ5

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自ずと歩くペースが遅くなった私の歩幅に合わせて

ゆっくり、歩いてくれていた大野さんは、

「ちょっと寄ってこか」と言って、

近所の小さな公園を指差した。

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智「あんま家に帰りたくないでしょ」

広い部屋に1人でいる寂しさを分かってくれている大野さんは

私の返事を聞く前に、公園へと足を向けた。

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大野さんがブランコに座ったから

私もその隣に座る。

ゆらゆらと揺れた大野さんからは

初夏の夜の風に乗せて

微かに、ホワイトムスクの香水が香った。

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「大野さん」

智「んー？」

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「翔は本当に、自分から飛び降りたんでしょうか」

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私がふと、口に出した言葉に

大野さんは揺れていた体をゆっくり止めて、私を見つめた。

智「…なんで？」

「自分で決めていた予定をドタキャンしたこととか、今までになかったので…。」

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彼は事前に計画立てることが好きだったし、

人に迷惑をかけることをとても嫌う人だった。

それに、私との約束を
今まで一度も破ったことがないんだ。

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だから今回、約束を守らなかった彼が

なんだか妙に不思議に感じたのだ。

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…これは単に、
私の願望に過ぎないのだけれど。

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智「確かに…。」

大野さんは呟きながら、遠くを見つめた。

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「…ごめんなさい。変なことばっかり、考えちゃいます」

まだ動きを止めたままの大野さんに、

私はそう言って笑った。

つい、大野さんに口走ってしまった。

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なんだか空気を重くしてしまった気がして

「ちょっと待っててください」と言い

私はブランコの隣にある自販機で

冷たいカフェラテを2つ、買った。

音をたてて落ちた缶を両手で拾うと、

その片方を大野さんに渡す。

彼は、「お、ありがと」と言って受け取ってくれた。

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智「流石俺の好きなのわかってんね」

「翔が大野さんにいっつもこれ買ってましたもん」

ほんの少しだけ、2人の気が緩んだ気がした。

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一口飲んだそれは、喉を冷やしてくれたけど

珈琲の苦味の美味しさはやっぱり分からなくて、顔を顰める。

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翔は、

私の約束を破ったりなんか、しない。

私を置いてどっかに行っちゃったりしない。

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どうしてもそう信じたい私が、

心の中でぐるぐると疼いた。

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