鬼が出るか蛇が出るか (ページ4)

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04.青の思い出ページ4

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さっきまでオレンジ色に光っていた太陽は沈み、

世界は夜に染まり出した。

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いつもの家に向かう帰り道、

私の隣にいるのは、夜風を浴びて目を細める、愛する人の幼馴染。

翔が「智はスーツ似合わねえな」って笑ってた通りに

あんまり似合っていない彼のネクタイが、ゆらゆらと靡いている。

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こうやって2人きりになることも、しっかりと話すことも

もしかしたら初めてかもしれない。

翔に出会った頃、すぐに

大野さんには会ってた筈なのにね。

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智「痩せたね」

私よりほんの少し背の高い大野さんは
私に目線を合わせて、どこか儚く笑った。

「そう言う大野さんも」

智「ふはっ、そうかも」

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私たちが見せるほんの少しの笑いは

常に何処かに愁いを含んでいて。

大野さん、上手く笑えてないですよ。
そう、口にしようとして辞めた。

きっと私も、上手く笑えていない。

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智「でもね、まだ翔くんにバイバイ言えてねえから、泣いたり出来ないのよ俺。未だに。」

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…翔が命を絶ったのは

青く澄んだ、海の中。

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付き合って3年記念日の日に2人で旅行した、

この街から、車で2時間ほどで着く場所の海だった。

その海の近くには、山があって

奥へ行けば行くほど、危険な場所になるらしい。

森を抜けた崖付近に

翔の靴と、私がお誕生日の時にちょっと奮発して買ってあげた、ブランド物の腕時計が出てきたのと

家に置いてあった彼からの手紙により、

その崖から飛び降りたのだと言われている。

ただ、翔の身体は海の中から見つからず

私たちも彼を、この目で確かめることは出来ていなかった。

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「実感はまだ湧かないですけど…翔がいないことに、慣れていかなきゃいけないんですよね。」

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私が、翔を本当に失ったのだと悟ったのは

手紙の文字が、翔の字だと自信を持って言える事と

崖の近くに落ちていた腕時計は、私が凄く悩んで選んだ期間限定のデザインの物で。

その時計の裏面、右端にとても小さく
『10.3』と彫られていたことだけだった。

10月3日は、2人の記念日。

目立たない位置に、私が彫って貰ったものだ。

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大切な人に、お別れさえも告げられない悲しみ。

それが分かり合えるのは、

私の身近では、大野さんしかいなかった。

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