24.沈黙の渦 ページ24
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「冷蔵庫に酒か水しかなかったわ。」
そう言って差し出されたペットボトルを
私はただ流れているテレビを見つめながら漫然と受け取った。
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男性の一人暮らしにしては広すぎるリビング。
綺麗に整えられたモノトーンの家具。
昼間なのに暗すぎる証明。
懐かしいベルガモットの香り。
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「で？今度は何？」
潤はそう言って
苛立ちを含んだ優しい笑みを私に向けた。
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潤「仕事は？」
深いため息をついて質問を続ける。
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「休んだ…」
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渡されたペットボトルに
ゆらゆらと自分の醜い影が映る。
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潤「ふーん。ま、今日土曜だし俺はいいけど。」
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そう言ってスマホを片手にタバコに火をつける姿は
昔と変わらない。
美しい。この言葉がよく似合う。
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"さぁ？…なんのこと？"
二宮さんが、去り際に言った言葉が頭の中で蘇る。
二宮さんが他に知っている事があると、確信があったわけじゃない。
軽い冗談のつもりで、いや本当はそうであって欲しくなくて、鎌をかけた。
でも…態とらしく微笑む彼の目は
その言葉と共に微かに揺れた。
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パッと視線を横に移すと
ソファーの肘掛けを枕にしながら横になってスマホをいじる潤と、視線が交わる。
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「潤…ってさ」
「後悔してることってある？」
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私はきっと自分では抱えきれない程の沢山の後悔を
直ぐにでも吐き出してしまいたかったんだろう。
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今日ここに来ると決めた時から、聞いて欲しかったんだろう。
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潤のたった一つの後悔に気が付いていないフリをしてまで＿＿＿＿＿＿＿。
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潤「俺の人生、基本俺の思い通りだよ。」
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潤は突然の質問もさらりと躱し、キュッと口角を上げた。
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「そっ…か。」
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もの憂い沈黙を破ろうと、次の言葉を頭の中で必死に探す。
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潤「Aのこと以外はね。」
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静寂を掻き消し、予期せず呼ばれた名前に自然と体が反応する。
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「え…」
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潤「Aをあいつに紹介したこと。これが俺の人生最初で最後の後悔」
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瞬きするのを躊躇う程、潤の視線が熱い。
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潤「あん時、絶対俺より幸せになれって約束したよね？」
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憎悪を隠し、平静を装う潤の瞳に吸い込まれそうになる。
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ギシッ
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重厚感のあるソファーのスプリング音と同時に腕を引っ張られ
気付いた時には、潤の胸に顔を埋めていた。
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作者名：星雪 x他1人 | 作成日時：2020年5月8日 1時
