20.歪み ページ20
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陳腐なラブホテルの陳腐な部屋。
相葉さんと仕事終わりに向かうのは決まって同じ場所だった。
どこか埃っぽい、誰かの残り香が微かに残ったこの部屋が
私はどうにも好きになれなかった。
そういえばここへ来たのは翔が死んで以来初めてだな、なんて。
冷静に頭を巡らせてる自分に嫌気がさす。
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雅「なにか飲み物いる？」
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赤いソファの上。
相葉さんが、笑う。
「いえ…大丈夫です」
じゃあ俺ビール飲んじゃおうかなって立ち上がって
その衝撃でソファが少しだけ軋む。
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翔よりも細い腰。翔よりも少しだけ高い体温。
忘れようと思って閉じ込めていた記憶が、この部屋で一気に蘇る。
雅「なんか。久しぶりだから緊張するね(笑)」
パ、と点けられたテレビ。
後ろ姿しか見えないけれどきっと彼の目尻はいつもみたいにシワを刻んでいる。
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雅「ごめん。吸ってもいい？」
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相葉さんは。
お店でも家でも吸うことのない煙草を
私とこの部屋に来る時だけ、取り出す。
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プシャ…と缶ビールを開ける音。
ゆらりと、煙が揺れる。
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ああ…なんでだろう。
その煙を見ていると
頭の中で、あの男が、「あんた、自分の事は微塵も疑わないんだ？」と笑う。
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「…………大野さんが。」
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考える前に、口から出てしまった名前に
相葉さんが。うん？って聞き返す。
やがて煙が昇っていく。
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「‥大野さんが‥‥‥‥私と相葉さんがホテルに行ったところを前に見たって…。」
「翔はそれを知ってたって…。」
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「…わたし…………どうしよう‥‥‥‥」
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薄暗い部屋の照明でさえ眩しくて、痛い。
寒くないはずなのに全身が震える。
私の罰だ。私の罪だ。
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相葉さんの顔が、歪む。
歪んだ顔で、ごめんねって微笑んだ。
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“ごめんね”………？
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「え…」
ぱ、と顔を上げた時にはもう遅くて。
目の前に。いつもの相葉さんはいなくて。
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雅「櫻井くん。殺したの俺なんだ」
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私の知らない顔で、ニコッと悪魔が笑った。
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作者名：星雪 x他1人 | 作成日時：2020年5月8日 1時
