. ページ20
.
「わりぃいな、一人にして」
片手で軽々とお嬢を抱き上げる。
「大丈夫だよ、くみちょー。めめが守ってくれた」
黒で統一されたピアスが余すことなく付いている厳つめの耳に、内緒話をするようにして言う。
「あぁ、あいつは良い奴だ」
「うん、いいやつ」
岩本は急かせかと歩かずに、ゆったりお嬢の呼吸にに合わせる。あわよくば、眠気を促してほしいと思いつつ。
襖を開ける。
その襖に描かれるのは梅の木に雪がかかった見事な水墨画。
お嬢が慌ただしく布団から抜け出したせいだろう、掛け布団はぐちゃぐちゃだ。
岩本はお嬢をゆっくり布団に下ろしながら、反対の手で器用にそれを直す。
「……ひかる」
「ん、どうした？」
二人きりの時だけ、名前で呼ぶという秘密の約束。
「最近こわい夢見るの」
宮舘や渡辺が口を開く前に、この男には自分で言っておきたかった。絶対的な安心感を覚える彼には、自分の口で言いたかった。
「……そうか、寝不足気味か？」
「ううん、まだへいき」
瞬きをするかのように一瞬動揺したものの、冷静さは決して忘れない。
「A、どんな夢？」
「……包丁持ってた、叔母さんがいた」
「包丁、ね。叔母さんと……、それだけ？」
「うん、覚えてるのはそれだけ」
自らは胡座をかき、お嬢をその膝の上に乗せる。
淡々と答え、淡々と質問する。12歳の少女にしては物騒な夢にもかかわらず、彼女に向ける岩本の瞳は優しい。
「Aは背が伸びたね」
「それこの前も言ってたよ」
「そうだっけ？でも毎日思うんだよ」
考える素振りを見せたのも、束の間。
岩本はお嬢に心配の隙を一秒たりとも見せたりはしない。
「夢は怖い？嫌い？」
「…うん、いや」
「そうだよね。
……A、それはね、夢じゃないんだよ」
「、ん？」
小さく傾げた頭に大きな手を添える。
「Aの身に本当に降りかかったこと。だけど、今はまだ思い出さなくていい」
大きな背中を丸めて、お嬢をすっぽりと守るようにして抱き寄せる。
「A、ころされそうだったってこと、」
「簡単に言えばね、でも生きてる。翔太が助けたから」
羅列された言葉を噛み砕くのに、ひどく時間を要した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1664人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霞(プロフ) - takkimakkiさん» 嬉しいコメントありがとうございます！これからも素敵な百合組お届けできるように頑張ります！ (2023年1月2日 23時) (
レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
霞(プロフ) - まなみんさん» コメントありがとうございます！励みになります( ¨̮ ) (2023年1月2日 23時) (レス) @page30 id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
takkimakki(プロフ) - すごく好きなお話です。ころからも楽しみにしています！！百合組、素敵です。 (2022年12月29日 10時) (レス) @page34 id: ff744b84c3 (このIDを非表示/違反報告)
まなみん(プロフ) - 続きが気になります！無理せず更新頑張って下さい！ (2022年12月11日 8時) (レス) id: 5b5d40fc7f (このIDを非表示/違反報告)
霞(プロフ) - 雪姫さん» ありがとうございます！マイペースですが、更新頑張ります。 (2022年12月5日 0時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：霞 | 作成日時：2022年11月30日 1時
