四夜 ページ5
「A嬢」
「約束、守ってくれたのね」
この前と同じような時間に現れた怪盗。
手摺に腰を掛け、足を組む。
「私は約束は破りませんよ。これを貴女へ返しに来たのです」
軽やかに手摺から降りて私の前へ降り立つ。
そして、鼻が擦れるほど顔を寄せて、
「っ…！」
「これは貴女を飾っている方が嬉しそうだ」
彼の両腕が首へ回って、カチリと音がする。
「…どうして、返すの？」
その光景を信じられないような目で見ていた私のその言葉に、少し驚いた様なキッドの表情。
「ですから、貴女の首に__」
「要らないわ…！これは貴方の物だと、そう言ったでしょう！」
キッドの胸辺りを掴む。
昂っていた私には、彼への言葉は止められなかった。
「貴方にとって私は数ある内の一つだと……分かって、いるわ…っ！私がどう思っていても、貴方には真の貴方を知る誰かが居る。私が貴方のことを知りたいと思っても、貴方の何でも無い私が知る必要は無い…！」
こんなに叫んだのも久しぶりで、少し声が枯れる。
びりびりと喉が震えて、噎せそうになる。
「その宝石を、貴方が持っていたら、私の事を思い出してくれると、そう思って…いたのに…！」
私の思いはどうでも良いと、そう言うの？
「…な、っにが、怪盗紳士よ…！私の心を掻き乱すだけ掻き乱して…唯一間にある宝石を返して終わり…？いい加減にして頂戴！」
言いたいだけ吐き捨てて、バルコニーから部屋に入る窓の扉を開き、大切に取っていたハンカチを引っ掴み、さっきから動かないキッドに押し付ける。
「…これで、私達の薄い関係も終わり。こんな私の元へ訪れてくれてありがとう、怪盗さん」
俯いたまま部屋へ戻ろうと返した__
「…話は最後まで聞けよ、A」
いつもと違う、低い男らしい声。
そして、逃れられない程強く握られた手首。
「っ…はな、して…」
振り向いて彼の顔を見る。
掴んでいる彼の手に手を添えると、ばっちりと視線が交わる。
モノクルの奥の瞳が爛々と光っている。
「…っ、あ…」
彼の纏うオーラに気圧され、腕を掴まれたまま少しずつ後退りする。
途中足が縺れて後ろへ倒れ込みそうになる。
「…きゃっ…！」
視界の隅で、キッドが私の背中へ手を回したのが分かったが、そのまま床へ倒れ込む。
「…っ、ん…」
ぱちり、と目を開けると目の前にはキッドの顔。
「終わりにするつもりなんてねぇよ…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1613人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シアん。 - 軽く23回咳き込んだに見えてしまった (8月19日 8時) (
レス) @page8 id: 2170ff9ae1 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - この小説私得だ…めっちゃ好きー。言葉に表せないくらい好きです！これからもがんばってください！ (2019年11月3日 22時) (レス) id: 1eb05cfcac (このIDを非表示/違反報告)
蘇澳(プロフ) - チイナさん» 私の拙い文章にそこまで言ってくださって本当にありがとうございます…！チイナさんのお言葉に感動して涙が出ました…そこまで私の作品を楽しんで下さりありがとうございました！感謝でいっぱいです！ (2019年7月24日 19時) (レス) id: e4a4be21c3 (このIDを非表示/違反報告)
チイナ(プロフ) - 完結おめでとうございます。いつも更新されるのを楽しみにしていました。更新されて、すべて読み終わったときに、いつも評価を押してしまうんです。何回も何回も押しました。自分でも笑えてきます。とても良い作品でした。改めて、完結おめでとうございます。 (2019年7月20日 20時) (レス) id: f759a37db1 (このIDを非表示/違反報告)
蘇澳(プロフ) - 雨上がりのcrewさん» そう言って頂いて凄く嬉しいです！ありがとうございます！これからも更新頑張りますのでよろしくお願いします！ (2019年6月16日 13時) (レス) id: e4a4be21c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蘇澳 | 作成日時：2019年4月15日 7時
