二十七話 ページ27
史恵side
『史恵』
懐かしい声がする、まるでひだまりの中で輝く一輪の花のよう。朝露に濡れた葉を風に靡かせ、緩やかにその全てを輝かせながら、笑みを浮かべるのは幼い頃の彼女。まるで母子のように接してくれる彼女は娘のようだった。
子を産めない体の私に、彼女も彼女のお母様もとてもお優しくしてくださった。
時に私の失態を庇い、体や顔に痣を侍らせて。
なんと、何と勇敢でお優しいお方か。
こんなにも美しく穏やかな方が禪院に座すのかと、信じられなかった。
亡くなられたと聞いた時もそう。
呪術師になられるために家を出られた際、私は涙を流して彼女を祝福した。
ようやくこの家の呪縛から解き放たれる、自由をつかみ取れる日が来たのだと。どうか健やかであられよ、あなたは私にとっての希望だから…そう言って。
「云須さまは本当に悲しい人生を歩まれた方でした。齢六つでお父様から出来損ないと揶揄され、私どもと同じく雑用をこなす日々を送り、お母様も病に倒れてしまい」
「果てにはお兄様もお亡くなりになられ、しばらくは気性も激しくなられて…」
「お兄さん？ご兄弟がいたんですか」
「ええ。お二人とも仲がよろしかったんです。兄が妹を、妹が兄を守るからと…そう約束するほどに」
しかし、そんな約束も果たすことができずに終わったのだ。
「お兄様が亡くなられてニ、三年ほど後に、階級が特級に昇格したとお手紙が届けられまして。当主も皆も誇らしくなりましたが、数ヶ月後にいきなりその称号をお捨てになられたのです」
「捨てた？特級の地位を…！？」
「私たちも驚きました」
呪術師の最高峰である地位を彼女は捨て、しばらく姿を消していた。我が家の術師たちが捜索に当たるも見つからず、どこへ行ったものやらと頭を悩ませていた時だ。
「��彼��が、現れたんです」
「彼？」
首を傾げる歌姫さんと五条様。
膝の上に置いていた両手を強く握りしめる。
目の前で起きていたことに私は何を考えるでもなく、ただひたすらに足を動かしていた。佇む姿はまさしく彼のもの、顔も声も表情も仕草も、その全てが彼であると…そう証明していたのだ。
けれども怖かった。
彼が、彼でないという事実に。
私は恐怖した。
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ツバメ - なんか甚爾が居ないのを前提にしてるからそこは凄くさびしいけど、彼女の意思と決意が強すぎてつい本人みたいに引き込まれてしまいそうです (2021年7月27日 23時) (
レス) id: e61b67cd9c (このIDを非表示/違反報告)
黒野麻陽(プロフ) - クレイさん» 応援ありがとうございます、期待に応えられるよう精一杯やります！！ (2021年3月11日 20時) (レス) id: 53793cef18 (このIDを非表示/違反報告)
クレイ(プロフ) - 続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月11日 20時) (レス) id: a6777d967f (このIDを非表示/違反報告)
黒野麻陽(プロフ) - てる。さん» コメントありがとうございます！できるだけ面白く書けるように頑張ります！！ (2021年3月5日 15時) (レス) id: 53793cef18 (このIDを非表示/違反報告)
てる。 - 話の中に凄い引き込まれました。一言ではいい表せませんが、言葉が見つからない…！更新、楽しみに待ってます。 (2021年3月5日 14時) (レス) id: 5ec2a8a618 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黒野麻陽 | 作成日時：2021年2月17日 22時
