人一年生9~加州Side~ ページ20
___水瀬ひなこがまだ温泉にいた頃___
加州「はあ…」
加州は濡れた髪を主に渡されたたおるで拭きながら昼間こんのすけに通された大部屋に入った。
畳が一面にしかれた広々とした部屋の中央には、布団が2つ、用意されていた。
加州「………。」
それを加州は立ったまま無言で眺める。
懐かしいそれには、前の主がよく横たわっていた。
…時に血を吐き出し、苦しげに息をはきながら。
(俺はあのとき、ただ見てるしかできなかった。)
今のように人としての体を持たなかった頃、俺は沖田くんの枕元に置かれて、ただその光景をじっとみてるだけの、役立たずだった。
助けたい。苦しまないでほしい。
そう願っても、どうすることもできない。
俺を腰に下げて、はつらつと生きていた頃を知っていたからこそ、余計にそれは辛いことだった。
(でも今は違う。)
気づけば与えられていた、自由に動く人としての体。
俺の意志で、好きなように行動を起こせるようになった。
(もう二度と、あの時の歯がゆくて辛い思いはしたくない。)
加州はゆっくりと布団の上に腰を下ろすと、ふわふわの枕に顔をぽすんと埋めた。
なんだろう、すごくいい匂いがする。
優しくて落ち着くいい匂い。
やわらかい香りに包まれていると、ふと、さっきのことが思い出された。
主とお風呂に入っていた時のことだ。
加州はなぜか、終始、ドキドキと動悸が止まらなかった。
それは脱衣所で主の裸をみたときから始まった。
原因がよくわからず、むずむずとしていたものの、自分がいつもとちがうということはなんとなくわかっていたので、主に悟られないよう、内心必死に平然を装っていた。
あれはなんだったのか、よくわからないけど、俺と主の体はなんかちがった。
(柔らかそう)
主が頭を洗って目線が塞がれている間、加州は体を洗いながらそうおもった。
二人でお湯に浸かって、主が気の抜けた声を出しながらお湯に沈んでいくのをみて、なんとなく、触ってもいいかと頼んでみた。
聞くと、主は一瞬驚きつつも、いいよ。といった。
主のほうに手をのばす。
主の顔はなぜか真っ赤になっている。
視線を斜めにうつし、濡れた髪から水滴が伝う。
…それをみているうちに、なぜか自分がだめなことをしている気がして、手を引っ込めた。
加州「…ごめん、やっぱりいいや。」
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作者名：PANANA | 作成日時：2020年12月19日 8時
