三十二* ページ33
五条side
二年後___
僕の見ていた世界は唐突に色を失った。
原因なんて分かりきっている。僕の大切な人間が、心から傍にいて欲しいと願った女性が、音沙汰もなくいなくなってしまったから。
こんなことになるのなら、彼女と出会わない方が良かった。蔑まれたままで良かったのに。ずっと一人でいれば、こんな苦痛を味わうことなんてなかった。
「嘘つき」
呟いた言葉は誰に届くこともなく消えていって。
女中に何度か雅の屋敷まで行かせたことがあるが、彼女達は口を揃えてAはいなかったと、あの父親に聞いても何も話してくれなかったと言っていた。
どうして。
僕を一人にはしないと、置いては行かないと言ってくれたのに。
彼女の笑顔が脳裏に染み付いて離れない。
Aがいなくなってしまってから全てがどうでも良くなって、婚姻しろと煩かった薫子も僕に愛想を尽かして屋敷に来ることは無くなった。
何をしても、何を見ても、何も感じなくなったのはいつからだっけ。
「………」
外は曇っており、そのうち雨が降りそうだなとぼんやり思う。
いっそ。
もういっそ雨なんて止まなくていい。永遠に降り続いて何もかも飲み込んでしまえばいい。
こんな世界、僕はもう生きていたいとは思えない。
愛した彼女が僕の傍にいない世界なんて。
A…どうして?どうして僕の前からいなくなったの?
女中「五条様…!」
「何」
女中「来客…です」
五条「追い返せ。殺すって脅してもいいから」
面倒だ。最近は誰も来ていなかったのに。
僕の言葉を聞いても女中はその場から動かず、何かあるのかと尋ねようとした僕より先に彼女は口を開く。
女中「雅様…なのです」
「っ!!!」
気付いた時には既に廊下を走っていた。
「A…っ!!」
『お久しぶりです…悟さん』
此方を見て笑みを浮かべるAは少し大人びたものの、彼女の浮かべる表情自体は二年前と何一つ変わっていなかった。
「今まで何処にいたんだよ…!なんで何も___」
詰問しようとした僕の口に手を当てたAは笑みを浮かべたまま言った。
『そのことについてお話したいことがあります。部屋に入れてくれますか』
僕はただ頷いて、Aは“ありがとうございます”と感謝を述べた。どこか寂しそうな表情を浮かべて。
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?(プロフ) - 今までで1番好きなお話に出会えて本当に幸せですㅠㅠ感情移入し過ぎて自分までもが懐かしい気分になってしまい不思議な感覚でした笑主様の文章力ありすぎて考察もしやすかったです、がち尊敬です!素敵なお話ありがとうございました🥹💗💗 (3月17日 7時) (レス) id: 0539db3d38 (このIDを非表示/違反報告)
刹葉(プロフ) - えねごりらさん» ありがとうございます…!次回作も楽しみにしていただければ…!!(o^^o) (2022年1月26日 17時) (レス) id: 1a2812ca8a (このIDを非表示/違反報告)
えねごりら - 完結おめでとうございます!!!名作すぎるので何度も読み返します笑次回作も楽しみです!! (2022年1月26日 15時) (レス) @page42 id: 71d3d1284f (このIDを非表示/違反報告)
刹葉(プロフ) - えねごりらさん» えねごりらさんコメントありがとうございました…おかげさまで変な終わり方にはなりましたが完結できました…!本当励みになっていたので心からの感謝を申し上げますッ!! (2022年1月26日 1時) (レス) @page42 id: 1a2812ca8a (このIDを非表示/違反報告)
えねごりら - すれ違ってる…切ないが溢れ出てます!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!!更新お疲れ様です(о´∀`о) (2022年1月25日 21時) (レス) @page35 id: 71d3d1284f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹葉 | 作者ホームページ:http://mobile.twitter.com/fall_0613
作成日時:2022年1月17日 20時