薄桜鬼〜三番組組長の右腕〜

不安 ページ20

斎｢...居合で脅せば容易に退くかと思ったが､奴には俺の剣筋が読めていたようだな｡｣
貴｢...はい｡｣
斎｢A､奴とは対面した事があるのか？｣
貴｢池田屋の際､少しだけ｡｣
斎｢そうか｡天霧九寿...薩摩にも厄介な輩がいるようだ｡｣
貴｢まだ､話の通じる点は救いかもしれませんね｡｣
斎｢そうだな｡｣
それから私たちは山崎さんが帰るのを待ちながら蛤御門の警備についた｡
仕事らしい仕事はなかったが､ぴりぴりとした空気だけは漂い続けていた｡
長州の過激派浪士たちが御所に討ち入ったこの事件は｢禁門の変｣と呼ばれるようになる｡
この事件で3人の男との出会いがあった｡
風間千景､天霧九寿､そして長州浪士と共に戦っていた不知火匡という人物｡
風間さん､天霧さんはもちろん､不知火さんも新選組の敵と言える存在｡
彼らは｢鬼｣と名乗り千鶴を狙っている｡
新選組が彼らと戦うことになれば大きな被害を受ける｡
対等に戦えるとすれば同じ鬼､もしくは鬼と同じ力を出せるもの...それはー
最悪な手段を考えつく頭を振りかき消した｡

千鶴が京にきてからもう1年がたった｡
そんな頃新選組に新しい隊士が入隊した｡
その中に大幹部にあたる伊東甲子太郎という参謀がいた｡
初めて伊東さんを紹介された時､皆さんはあまりいい顔をしなかった｡
伊東さんは尊皇攘夷派の人間､つまり長州の人達と同じ考え｡
そんな人が新選組と相容れるのか､皆さんはよく小声で不信を洩らす｡
私は伊東さんのことも気になっていたが､山南さんのことも気になっていた｡
秀でた参謀の加入は良いこと､でもそれは総長の役目がなくなるのを意味するようなもの｡
貴(山南さんが元気を取り戻してくれたら...)
1人頭を悩ましながら歩いていると浮かない顔をして千鶴が歩いてきた｡
貴｢どうしたの千鶴？｣
雪｢...山南さんに｣
貴｢そっか...｡大丈夫､あまり気にしないで｡｣
雪｢うん､ありがとう｡｣
貴｢千鶴､次の私の休みに出掛けようか｡｣
雪｢えっ？！いいの？｣
貴｢うん｡一度も2人で出掛けた事なかったし｡｣
雪｢嬉しい､楽しみにしてるね！｣
貴｢私も楽しみにしてるよ｡｣
歩みの軽くなった背中を見送り､中庭に行くと山南さんが立っていた｡
貴｢こんにちは山南さん｡｣
山｢あぁ雨宮君｡休憩ですか？｣
貴｢はい｡少し休もうかと｡｣
山｢そうですか｡無理はしないで下さいね｡｣
貴｢ありがとうございます｡｣
山｢えぇ｡｣
山南さんは微笑みを見せた。
けれど私の不安は消えなかった｡

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