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一先ず今は、鍵が掛けられていて牢から出ることが叶わない。
却説どうしたものか、と考えていると、扉の外に近付いてくる気配が二つあった。それらはちょうど私のいる牢の前で立ち止まると、そのまま動かなくなる。

(ああ……見張りか。良かった、これなら大丈夫)

見張りが居るのならやることはひとつだ。大きな音でも出して、中に入って来た所を倒してしまえばいい。
だが、今すぐ逃げ出すのは不味い。捕まった日の内は未だ警戒が強い筈な上、見張りが着いて直ぐに音を出しては怪しまれる。

実行するとすれば、かなり時間が経ってからが良いだろう。
それ迄は広津さんに云われた通り、大人しく此処で待つことにする。

「……」

背中を預けた壁の冷たさを感じながら、ぴちゃん、ぴちゃんと定期的に聞こえる小さな水音に耳を傾ける。

此処は相も変わらず、雨漏りしているらしい。最初に此処に入れられた時もそうだったので、まるで昔に戻ったような感覚に陥る。

(思えば私、本当に変わった)

こんな風に思うままに生きようとする日が来るなど、昔は考えもしなかった。誰かを大事に思える日が来るなど、思いもしなかった
ずっと渇いたままで、いつか壊れる時まで、誰かを壊し続けるのだと思っていた。

それが終わったのは、そして「私」が始まったのは、全部、此処からだ。

「――……」

静かに目を閉じ、(かつ)てこの場所で太宰さんと会った時のことを鮮明に思い返す。

今よりずっと幼くて、何も知らなかった私は此処に繋がれていて。そしてそんな私の前に、太宰さんは立っていた。

彼は、何か面白いものを見つけたような目で私を見ていた。そしてそこには、善意なんてものは欠片もなかった。
けれど、そこに込められた思惑が何であったのだとしても。

「私が、君を――――」

確かにあの人は、私の手を取ってくれたのだ。

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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時

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