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「思ったより早く着きそう」
鼻歌を歌いながらハンドルを滑らせる横尾さんを横目に
私はなんというか、もやもや継続中。
思い返せば結構可愛い感じだったなあとか、2人が並んで話していた姿が目蓋に浮かんでは、目をぎゅうと瞑ってかき消す。
「ねー、Aちゃん聞いてる？」
「え？あ、すみません」
「…疲れちゃった？」
スタジオ人多かったしね、と付け加えて
私の頭を撫でて笑う横尾さん。
そうじゃないけどそういうことにしとこう。
せっかくの旅行だし。
「わーすごい！すごいー！！」
旅館に着いたのは20時を過ぎた頃。
綺麗にライトアップされた門の奥は広々とした庭園になっていて、さすが一泊相当の値段だけあるとテンションが上がる。
横尾さんはキョロキョロと落ち着かない様子。
私も私で、さっきまでのもやもやした気持ちもどこかに行ってしまって子供のようにはしゃぐのだった。
「温泉の匂いします」
「ね、早く入ろ」
横尾さんは後ろから抱きしめるように私の腰に手を回して入り口に向かう。
「バレたらどうするんですか」
「いーよ、それは。
ていうかこんなバカ高いとこに泊まる人なんてそんなのどーでもいいと思う。」
「確かに。」
口が悪いけど私も納得して、横尾さんの手を握る。
横尾さんは優しく笑って手を握り返したのだった。
着物を着た担当の女性に部屋を案内してもらう。
いろいろと説明されたけれど、部屋が凄すぎて頭に入ってこなかった。
部屋は自分の家何個分？ってくらい広くて
外の景色が一望できる窓が一面に広がる。
奥のベッドルームはキングサイズで間接照明が品よく光っていて、窓の外はまた庭園と広々とした専用の温泉がある。
「よ、横尾さん〜」
「すご、ちょっと緊張する」
徐々に煌びやかな室内に2人とも慣れてきて、部屋を探索する。
ベッドルームの隅に置かれた浴衣。
横尾さんは景色に夢中なので勝手に着ることにする。
「横尾さん！浴衣ありましたー」
浴衣を身につけて横尾さんの方に行くと
「えー、ちょっと可愛い〜」
なんて早速デレてくる。
ぎゅうと抱きしめてくるので私も抱きしめ返す。
「超似合うじゃん」
ピタッとくっついて離れない横尾さん。
場所がそうさせてるのかいつにも増して甘えるので、私もなんだかくっついていたい気分。
ぎゅうと私も抱きしめ返す。
「ありがとうございます、連れてきてくれて」
「うん、来れてよかった」
愛おしそうに私を見るから、
私から、横尾さんの頬に手を伸ばしてかかとを上げる。
横尾さんも少し屈んでくれて、唇が重なった。
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作者名：soda | 作成日時：2020年5月26日 2時
