Ephemeral Joshua (ページ1)

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episode1 ページ1

普通に生きる。
案外それは難しいことなのかもしれない
どれぐらい難しいかは分からない

私からすれば知恵の輪ぐらい頭を使うことなんだと思う

ガシャンッ

そう。
普通に生きていればまず人にぶつかることなんて滅多にない

ユイ:A…！
「…やば。」

うっかり口に出てしまった
昼下がりの人が多いこの時間帯の食堂。
普段は前方に注意して歩いているが今日は違う、スマホの画面を見てしまっていた

席を探す友人の後ろをついて歩いていたのに顔を上げると人にぶつかっていた

コバルトブルーのTシャツは胸元が大きく染みている
持っているおぼんの上でラーメンの器が逆さまになって中身は全部こぼれている

唖然と立ってる私の横をちらりと見ればぶつかられた男の方を見て驚いている

…あ。誰だっけなこの人。

『…火傷してない？』

その人の声でようやく止まっていた時間が動き出したような気がした
騒がしい食堂が一気に静かになったのはこの人が有名な人で、私がぶつかってしまったからだ
怒鳴られるのかと思ったら優しい声で自分ではなく私の心配をしてきて驚いた

「あ、大丈夫です…服」
『いいよ。安物だから。』

派手にやってしまったが、幸いにも彼は替えのTシャツを持っているそう
この本人、というより隣の男。
金髪にセンター分けのこの男の方が私を睨みつけていた

『ごめんね、ちょっと急いでるからよかったらこれで拭いて』

私より遥かに高い背の彼はスキニーのポケットからハンカチを出すと私に差し出した
今時ハンカチを持ち歩く人もいるんだなと不思議に思う一方、彼が誰なのか名前が出てこなかった

『じゃあ、またね』

少しキザだな、と思いつつも彼の顔は凄く私の理想のタイプだった。
立ち去った彼の友人と彼は小走りで食堂を去っていった

「ねえ、あれ誰？」
ユイ:そんな顔してたよ。3年のホンさん！で、隣がジョンハンさんだよ

ほー…
大学の人間関係に詳しいユイはこの後こと細かく説明してくれた。
私がぶつかったのがホンさん。隣の金髪がジョンハンさん。
多分私に何回か話したことあるけど聞き流していたことがここでバレてしまった

「…ホンさんかあ」

借りたハンカチで胸元に少しかかった汁を拭いた。
…イニシャルが入ってる。
J.H…
ホン…ジなんちゃら？

普通の日常。
少し普通ではなかった今日の出来事であった