18 ページ18
ウジside
ホテルの廊下は、カーペットが足音を吸いこんでしまうせいでやけに静かだった。
キャリーの車輪だけが「ゴロ…ゴロ…」と低く響く。
ウジは片手でスーツケースを押しながら、横を歩くAの横顔を、ちら…とだけ盗み見た。
さっきまで、ぎこちなさを全身でまとっていたのに、今は俯いて、唇をかすかに噛んでいる。
胸の奥がじわっと痛む。
⸻
エレベーター前で誰もいなくなり、ふたりきりになった瞬間だった。
Aが、ほんの少しだけ息を整えるようにして口をひらいた。
「ウジさん…最近、私のこと避けてませんか?」
その声は責めるでも泣きつくでもなく、ただ確認したいだけの、淡々とした優しさを含んでいた。
続けざまに、小さく頭を下げる。
「すみません、この前…私、いろいろ話しすぎてしまって。
負担になってたなら…気にしないでください。」
ウジは、心臓が一拍遅れて跳ねるのを感じた。
(謝らせたいわけじゃない。俺の問題だ。俺がビビってただけだ。なんでこのヌナは…こんな風に言うんだ)
逃げ続けた自分が情けなくて、視線を反らしたくなる。
言葉が喉まで出てるのに、素直に出てこない。
「……別に避けてませんよ。」
Aが驚いたように瞬きをした。
ウジは続ける。これ以上、下手に優しくされたら全部見透かされる気がして。
「話がどうとかじゃなくて。俺が勝手に、距離の取り方わかんなかっただけなんで。」
言葉の先は、結局飲み込んだ。
視線だけは逃げずに、彼女を見る。
「…だから、その…変に気にしないでください、そのままのヌナで、大丈夫です。」
Aはしばらく黙ってから、ほんのすこしだけ笑った。
その笑顔を見た瞬間、ウジは思った。
(あ、勝てないな、やっぱり)
その目に見透かされるのが嫌なのに、見て欲しいと思ってしまう。
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←17
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 325人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:えぬ | 作成日時:2025年11月14日 17時


お気に入り作者に追加


