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ウジside



ホテルの廊下は、カーペットが足音を吸いこんでしまうせいでやけに静かだった。


キャリーの車輪だけが「ゴロ…ゴロ…」と低く響く。


ウジは片手でスーツケースを押しながら、横を歩くAの横顔を、ちら…とだけ盗み見た。


さっきまで、ぎこちなさを全身でまとっていたのに、今は俯いて、唇をかすかに噛んでいる。


胸の奥がじわっと痛む。





エレベーター前で誰もいなくなり、ふたりきりになった瞬間だった。


Aが、ほんの少しだけ息を整えるようにして口をひらいた。




「ウジさん…最近、私のこと避けてませんか?」


その声は責めるでも泣きつくでもなく、ただ確認したいだけの、淡々とした優しさを含んでいた。


続けざまに、小さく頭を下げる。




「すみません、この前…私、いろいろ話しすぎてしまって。

負担になってたなら…気にしないでください。」


ウジは、心臓が一拍遅れて跳ねるのを感じた。


(謝らせたいわけじゃない。俺の問題だ。俺がビビってただけだ。なんでこのヌナは…こんな風に言うんだ)


逃げ続けた自分が情けなくて、視線を反らしたくなる。


言葉が喉まで出てるのに、素直に出てこない。




「……別に避けてませんよ。」


Aが驚いたように瞬きをした。


ウジは続ける。これ以上、下手に優しくされたら全部見透かされる気がして。




「話がどうとかじゃなくて。俺が勝手に、距離の取り方わかんなかっただけなんで。」


言葉の先は、結局飲み込んだ。


視線だけは逃げずに、彼女を見る。




「…だから、その…変に気にしないでください、そのままのヌナで、大丈夫です。」


Aはしばらく黙ってから、ほんのすこしだけ笑った。


その笑顔を見た瞬間、ウジは思った。


(あ、勝てないな、やっぱり)




その目に見透かされるのが嫌なのに、見て欲しいと思ってしまう。

 
 

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作者名:えぬ | 作成日時:2025年11月14日 17時

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