青春の１ページ【合作短編集】 (ページ10)

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必死に隠し通す心の内まで手を突っ込まれて掻き出されるような、冷たい恐怖心と熱い興奮。アイドルである彼に抱いてはいけない感情だと蓋をしたその想いも、彼は片手間にだって転がしてしまえそうだ。

だってこんな想い、いらない。
彼にとって重いものである青春を塗り替えて輝かせるのは、私じゃない。同じ世界できらきら光る、眩しい仲間の仕事だから。
Aにとって零はどこか遠いひとで、自分には溶かせない酷く冷たいなにかを抱えていて。自分なんかが好きになれないのだと、そう思い込んでいた。

「っ好きでもないくせに、やめてください」
「遊びでは近付かぬと言ったはずだが？」

遊びで近付いたりしない。つまり彼がここまで近いのは、そういうことしかないわけで。混乱する頭と震える体に、誰もが振り返るような彼の美貌はあまりに鮮烈な情報すぎた。

「……ほれ、言ってしまえ。その想いに一言の名前さえつけてしまえば、楽になるぞ」

首の後ろから後頭部に、大きな手を回す。確信犯よろしく耳元で思い切り低く囁く零の顔などAは知る由もないのだが、それを想像するのは容易い。
響く声から、触れる手から、愉悦を含めた微かな吐息から。零の鼓動を訴えるちいさな情報のひとつひとつが、夕焼けに照らされ紅く染みていくようだった。

赤い世界が、気をおかしくする。
想いに蓋をしたその相手がこんな近くにいるという非現実感、薄暗い部屋が赤く染まった異様な光景、それからここが学院であるというロマンと背徳。

「何を、躊躇っている？」
「……私がひとりの青春に手を出すこと、です」
「なぜ？」
「それは……」

なぜ、それは私が彼を……。
今何を考えていた？ Aは簡単に零の手の内に嵌っていたことを恐ろしく思った。
大切に思うから触れたくない、アイドルの青春を自分のせいで壊したくない、儚く重いものに私の色をつけたくない。理由はそれたけだ。好きとか嫌いとかじゃなく、ひとりの青春を変えてしまうのが嫌なんだ。

ふふっと零がほくそ笑む。何としても自分の想いを認めてしまいたくないAの考えていることも分かっているような冷たい視線。

「いつまでもつか、見ものじゃのう……♪」

這わせた手から熱が伝わる。じわじわとAを侵食していく零の頬も、薄ら赤く色を帯びていた。

それは差し込む夕陽のせいか、それとも非日常に高揚したせいか。
零すらも知り得ない、重く儚い青春の熱。

空間を染める太陽は今に沈もうとしている。

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