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透/天祥院英智 ページ6




遠くで鐘が鳴る音が聞こえた。地響きの様な音だ。それならばそう遠くはなかったのかもしれない。

頭が痛くなる様なその音に、私は小さくちいさく絶望した。


青春、というものに色があったのならば、それはどんな色であろうか。青い春、と書くのだから青 という答えが普通だろう。人によっては灰色、それから桃色、黒色、虹色、そして薔薇色、色々ある。

ならばこれはどうだ、青春、というものの色は透明だ と。青春に色はなく、彼方が透けて見えるような色をしている。

「 ダージリンだよ 」

ことり、目の前の机に高級そうなカップが置かれる。抜き取られた白い手は矢張り彼の顎の下に収まるのだ。また地響きのような鐘が聞こえた。果たして何時間ここにいるのだろうか。カップの底が透けて見えるその色は微かに自己嫌悪を含ませている。

「 自己犠牲の上に成り立っているのならば、それは愛ではないよ 」

自己犠牲の塊がよく言う、とそんな風に思う。儚きその笑みに騒つく心臓は無視、紅茶に視線を落とした。色がごっそりと抜き取られたような気がしてならない。

「 英智さん、今までにどんな色を集めたのです? 」

「 …そうだね、黒と、それから… 」

急に生き生きとした顔に変わった。どんな表情でも見逃さまいと思って見ていた甲斐もありその一瞬の変化を捉えられたが、思うのは本当に恐ろしい人だ、ということだけ。心臓のあたりで鐘が鳴っている。勿論地響きだ。

私の色はもう既に彼の手の中にあった。青春というものは透明で、何一つ捉えられない不鮮明な色をしている。それはどうかなとでも言う風に手を広げた彼は、沢山の色を見せるのだ。虫のようにその輝きに集った人々は、矢張り虫のように踏み潰される運命しか残っていない。

「 返してあげることは? 」

「 他のはいいけれど、君のだけは駄目 」

「 ……言ったじゃないですか、自己犠牲の上に成り立っているのならば 」

「 それは愛じゃない。 」

当然のことだ、と彼は肯定する。それに続けて口を開いた、また地響きがする。

「 けどね 」

一口も飲んでいない紅茶を見つめた。青い春と書くだけあってそんな色をしているのかと思ったが、現実はこんな色をしていたのか?透き通るようなそれも、何だか濁って見える。蛍光灯を反射しててらてら光った。その情報が脳に伝わる前に、双眸から 透明な何か が零れ落ちたのだ。



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作者名:enst青春合作 x他9人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年5月20日 21時

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