スティミュラスと青の訪れ/1 ページ33
次の日、アイドル科校舎の屋上にて。
私は遥か眼下に広がる光景と、後ろに立つ人物を交互に見る。頰を、一筋の冷や汗が落ちるのがはっきりと分かった。
「あ……あの、零さん」
「ん?」
「本当に……?」
そこから先はとても声にならなかったけれど、零さんにはちゃんと伝わったみたいだ。にぱーっと愉しそうな笑顔を浮かべて頷いた彼に、頷き返すことしか出来ない。
昨日、零さんは唐突に「屋上でバンジージャンプしよう」などと宣い始めた。その瞬間、夏目くんが目に見えて同情してるような真顔になって、けれど私の視線に気がついた瞬間にいつもの微笑に変わったことを鮮明に覚えている。正直そのときから嫌な予感はしていた。
屋上バンジーって、と聞き返しても零さんは私の肩を叩きながら「今日はもう遅いし、明日を楽しみにしてろよ〜♪」と笑うだけで、夏目くんに至っては私から目を逸らしながら「良かったネェ、度胸がつくヨ。命の保証はしないけド」なんて言ってくる始末。しかも表情はいつも通りで、それが逆に怖かった。
というわけでビクビクしながら迎えた今日、抜け穴の先で待っていた零さんにつれられてやってきたのはアイドル科の屋上。
格子模様のタイルが敷き詰められた床は綺麗に整備されていて、花壇には青々としげった植物や甘い香りを散らす花が植えられている。私たち普通科の、なんの変哲もない屋上に比べればかなり豪勢で、ついつい見回してしまった。
そんな私を見て、零さんがカツリと靴音を鳴らしながら近づいてくる。
「ほら、別に珍しいもんがあるわけでもね〜だろ。さっさと飛ぼうぜ?」
その片手には縄。多分バンジージャンプ用の縄。待って、本当にやるの。
「……っ、心の準備が!!」
「わっ、と……お前たまに大声出すよな〜、いつも声小さいんだからびっくりすんだよ。あと寝起きの頭に響く」
不快そうにため息をつかれて、思わず顔を伏せてしまいそうになる。
「あ、」
って、駄目。ここで泣いちゃったらいつまでたっても変わらないし、零さんにも迷惑だ。ハキハキ話さなきゃ、でも大きすぎる声は駄目……。
「……ごめんなさい」
聞こえたかな、と顔をあげたら、にっこりと笑う零さんと目があった。
「んじゃ、罰ゲームとしてバンジージャンプな〜♪」
「っ!?」
やられた。不快そうなのは演技で、これがいいたかっただけなのだろう。
聞いてないですっ、と口の中だけで叫んでも、相手に届く言葉にはならなかった。
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まめだいふくもち(プロフ) - こたつさん» こたつさん、ご指摘誠にありがとうございます。漫画などでよく見る表現だったのですが、なにか事件が関連していたのですね…。勉強になりました。つきましては、その表現を修正させていただきます。コメントありがとうございました! (2017年10月29日 15時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
こたつ - ドラム缶に東京湾というワードは某事件を連想させるので修正した方が良いのではないでしょうか? (2017年10月29日 9時) (レス) id: ae4fce482d (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 抹茶粉さん» 抹茶粉さん、コメントありがとうございます!とてもとても嬉しいです…!私もれいさんにプロデュースされたい!という思いから書き始めたので、光栄です笑 (2017年8月2日 22時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶粉 - 零さんにプロデュースされるなんて夢見たいです…!もう始まりから胸のきゅんきゅんが鳴り止みません!笑 続き楽しみにまってます!更新頑張ってください! (2017年7月26日 16時) (レス) id: 634a139de2 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - ベリーさん» ベリーさん〜!ご指摘ありがとうございます。修正してまいりましたのでご確認ください。そして、またこのような事態があればお知らせください。 (2017年1月14日 13時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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