進歩/4 ページ28
「でも、お手伝いをするっていうのは本当。丁度、師匠に呼ばれた時間まで暇してたしネ」
言いながら、逆先さんはパイプ椅子に腰掛ける。一方、立ったままの朔間さんに、私は恐る恐る声をかけた。
「あの、朔間さ……」
「そうだ、それだよ」
「……へっ?」
言いかけた言葉を遮って、彼はびっと私を指差した。彼の持つ、覇気というか威圧感には体が竦んでいつにも増して口が開けなくなる。
「おまえさぁ、名前で呼べよ」
「えっ」
「えっ?じゃなくてさぁ。「零」って呼べっつってんだよ、先輩だからって遠慮しなくてもいいからよ」
いや、遠慮どころの問題じゃないでしょう。
私は部活にも所属したことはなかったし、ちゃんとした先輩がいたことはなかったけれど、さすがに恐れ多い。というか朔間さんは、敬語使わないと「敬語使えよ、あぁ?」とかいいながら殴ってきそうなタイプに見えない……?
「ほら、はやく。朔間さんじゃなくて、零」
「〜っ、さ、逆先さ」
詰め寄ってくる緋の瞳に耐えられなくなって、無意識に逆先さんの方を見る。と、彼の不満そうな半眼と視線がぶつかった。思わず、呼びかけた言葉を喉の奥に引っ込める。
「零にいさんはともかくボクは同年代のはずなんだけド……。逆先さん、じゃなくテ、ボクのことも名前で呼びなヨ。呼び方を変えるだけで親しくなったように思えるのは人間の単純な心理、それに零にいさんよりはハードルも低いよネ?」
……な、な、なにを言われているんだろう、私は。
幼いころからほとんど男子と話したことがなくって、名前は愚か苗字すらほぼ呼ばない。心内ではまだしも、口に出して二人の苗字を呼ぶのも躊躇ってしまう私に、なんという試練だろうか。
「つまるところ、これも一つの訓練なんだよ。大丈夫、俺たちは怒りゃしね〜から。なぁ、夏目?」
「逆にこの程度で怒るほド、ボクの心は狭くないヨ」
二人はそうかもしれないけど、私の心の準備が出来てない!
黙りこむ私に、ふっと影がさした。顔をあげれば、いつもの艶のある笑みを浮かべる朔間さんの姿。
「れい。ほら、言えんだろ?」
「……れ、い、さん……」
その笑顔には、勝てない。見惚れていたら、勝手に口が動いていた。はっとして顔を背けたら、「さん」もいらね〜のに、とぼやく声が聞こえてくる。
「まぁいいや。これからそうやって呼べよ〜♪」
こうなったら、もう首を横に振れない。大人しく、私は出来ているかもわからない曖昧な笑顔を浮かべた。
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まめだいふくもち(プロフ) - こたつさん» こたつさん、ご指摘誠にありがとうございます。漫画などでよく見る表現だったのですが、なにか事件が関連していたのですね…。勉強になりました。つきましては、その表現を修正させていただきます。コメントありがとうございました! (2017年10月29日 15時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
こたつ - ドラム缶に東京湾というワードは某事件を連想させるので修正した方が良いのではないでしょうか? (2017年10月29日 9時) (レス) id: ae4fce482d (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 抹茶粉さん» 抹茶粉さん、コメントありがとうございます!とてもとても嬉しいです…!私もれいさんにプロデュースされたい!という思いから書き始めたので、光栄です笑 (2017年8月2日 22時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶粉 - 零さんにプロデュースされるなんて夢見たいです…!もう始まりから胸のきゅんきゅんが鳴り止みません!笑 続き楽しみにまってます!更新頑張ってください! (2017年7月26日 16時) (レス) id: 634a139de2 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - ベリーさん» ベリーさん〜!ご指摘ありがとうございます。修正してまいりましたのでご確認ください。そして、またこのような事態があればお知らせください。 (2017年1月14日 13時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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