【あんスタ】プルメリア・ナハトムジーク〈2〉

デート/6 ページ29

夏目くんだって、礼儀は大事だって言ってたし……。でも、そんな気持ちがごちゃごちゃになり、どう伝えれば良いかわからなくてますますパニックになる。咄嗟に口から飛び出したのは、この一言だった。


「＿＿じゃあ、私にも、これ、プレゼントさせてください！」


ぽかん、と零さんは口を開けたまま固まった。「あっ、えっと、私もお礼、したくて」こういうときしどろもどろになるの、直さなきゃ。零さんだって固まったままだし。しかし数秒後、彼は綺麗な顔にふっと苦笑いを広げる。

「あはは。それこそ、いいのに……でもまあ、プレゼント交換みたいで面白いかもな。季節外れのクリスマス会みたいで」

交換しようぜと愉しげに笑った零さんに、ほっとする。と、そのとき。






「……ねえ、あそこのアクセサリー売り場の人……」
「あっ、思った！超美形じゃない！？」


ふと、遠巻きにこちらを見つめている囁き声を耳が拾った。会話内容的に、零さんの話だろう。私が注目を集めている場合本当消え去りたいって感じなんだけど、零さんが注目を集めているのはなんだか誇らしい。

「でもさ、」

彼女たちは無邪気に続ける。


「隣の子、つりあってなくない？」


その言葉は、はっきりとした刃の形になって私に突き刺さった。




＊


「いやぁ、時間ってあっという間だよな〜」

隣を歩く零さんが、しみじみと呟いた。いつのまにか陽は沈みかけ、空は一面濃い橙色だ。零さんはそういうけど、時間がこんなにあっという間にすぎるものだなんて私は知らなかった。

『つりあってなくない？』

そこでまた、先程言われた一言がふっと脳裏を過る。……さっきから、ずっとそうだ。いや、分かってたけど。私でもそう思うし、それ自体に異論はない。

「お〜い、A？」

それに、これで一つ分かったことがある。夏目くんに呼び出された日、噴水で邂逅した零さんや渉さんとお知り合いだという不思議な人物。彼に言われた、「遠くから見る」の意味。これは、きっと自分のことを客観的に見ろという意なんだろう。泉さんが言っていたのとも同じことだ。他人からの意見を耳にし、その大切さを改めて理解した。

自分の認識する自分と、他者の認識する自分は違う。確かに主観から離れて自分を見つめ返せば、なるほど色々と至らない点が見つかる。さすがに零さんの隣に並びたてるようになれるとは思わないけど、改善すべきことはいくつか思い浮かんだ。


……でもそれは別として、あんなふうに言われると傷つく……。


「……A？」


そこで、やっと自分が呼ばれていることに気づきはっとした。

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