雪の日に絵を描こう (ページ3)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:10,646 hit

月の似合う髪ページ3

兄者の登録データには俺と同じ苗字に続いてとある名前が打ち込まれた。もちろん今もそのまま。

それから数か月ほどして、兄者は「おにーちゃん」から「兄者」と呼び名が変わった。父さんががそ

の頃急に時代劇にはまってしまい、ふざけて俺が呼び始めた呼び方がそのまま引きずられている。

兄者の変異に気が付いたのは多分俺が一番初めだった。

そしてそれはとても穏やかで心地いいものだった。

兄者は俺が寝る前そばに居て、話を聞いたり、お話を読んでくれていた。ある夜、俺はもうすでに微

睡の中に落ちそうになっていて、窓から差し込む月明かりが兄者を照らしているのをうつらうつらと

見ていた。それは丁度逆光になる角度で、彼の表情はよく見えなかったけれど、じっと俺のことを見

つめているのが分かった。

それはいつも俺が寝付く前にしてくれる習慣だった訳で、俺は兄者がそこにいてくれるだけですぐに

眠りに落ちてしまえるのだけれど、その晩は何かが違っていた。

「どうした？」

「…うーん」

「寝れないのか」

その頃の兄者の口調は『兄弟』としての立場になじむよう、よりフランクな言い方になっていて、俺

はそれを嬉しく思ったものだった。おっと、話がそれた。

妙だと思ったは、眠れないからではない。むしろ眠たすぎたのだ。

なんでだろう。今日は特別疲れるようなことはしてないし、友達と珍しくサッカーをした昨日の方が

よっぽど疲れていたのに。

「んーん、眠い…」

「それなら無理して目開けてなくていいんだよ」

「ちょっとかんがえごとしてる…」

うーん…月がきれいだなあ。

兄者は俺のベッドの枕元に腰掛け風呂上りで柔らかくなった俺の髪を指で梳いていた。

そんでもって、その光を纏う兄者はなんて綺麗なんだろう。なんてことを思った。変だよね、男に

「綺麗」だなんて表現は。

でもその時俺はそう思ったんだからしょうがない。無造作にかき上げた青い髪が月の光に照らされる

と、まるで宝石みたいに光る。

「ね、ね兄者」

「ん？」

「兄者にも、わからないことって、あるの？」

ふ、と息を小さく吐いた、気がした。

「ああ、あるよ。

ただ、わかっちゃいけないことだってある。

でも、それはお前がすぐに分かるだろうよ」

俺は首を傾げた。

なんだろう、

ものしりの兄者でも分からないのに、俺には分かることって。