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そして故郷を想うとき、どうしても過去を思い出さずには居られない。
幸せなことがあった。辛いことがあった。立ち直ったことがあった。立ち直れないことが、あった。
一人の人間として歩んできた道が、他と比べて幸なのか不幸なのか。それは私には判断できないけれど。
愛してくれた人がいたこと。気にかけてくれる人がいること。
『……しあわ、せ』
私は、悲劇のヒロインにはなりたくない。
首にかかるネックレスに触れた。母の形見だった。
『お母様……。……シュリー』
久方ぶりに声に出した名前は、誰に拾われることなく落ちるように消えた。
もしくは、あの月くらいなら聴いていたかもしれない。
――と、そのとき。
『……っ！』
ドクン、とひとつ心臓が脈打ち、その気持ち悪さに耐えようと目を瞑る。
瞼が夜空を遮断したとき、代わりに視えた景色があった。この感覚には覚えがある。
電波の悪い通信のように、ノイズ混じりで途切れ途切れのその場面。
誰かがカップを持っている。それを口元に近付ける。
あぁ、のむ。飲む。吞み込まれる。
『……っは、……はぁっ……』
吐き気に似たものが胃をくすぶって、その映像を断ち切るように目を開けた。
鼓動を落ち着けようと浅い呼吸を繰り返し、倒れ込むようにベッドに身を放り出す。
あぁ、寝付けなかったのはこの所為か。
滲む汗のせいで額に張り付いた髪の毛が煩わしい。もう一度目を閉じても、先程のようなことが起こることはなかった。
ベッドに横たわって見上げる月は、変わらず、意に介さず、他人事のようにそこにある。
――もう、寝てしまいたい。
何もかも忘れて、自分でいられなくなるように。
私は、悲劇のヒロインにはなりたくない。
そしてそれと同じくらいに。
『………寝よう』
――"悲劇のヒロイン"だと、許されていたい。
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夜風−yorukaze−(プロフ) - とても面白くて、サクサク読めます！これからも頑張ってください！ (2020年4月26日 17時) (
レス) id: 58cfefca5b (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - wlthzさん» コメント、ご意見ありがとうございます。一言についてですが、このスタンスをとれるのも紙媒体の小説にはないサイトの魅力だと考えていますし、これを気に入ってくださる方も居るので、今後は思いついたときに挿入するスタイルに変更しようと思います。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
wlthz(プロフ) - コメント失礼します。１話終わるごとに挿入される一言で興が削がれます。物語自体は面白く読ませて頂いているので、そこだけが少し不満です。 (2017年7月24日 19時) (レス) id: 45eb196b6e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2017年5月9日 0時
