xx＿07 ページ11
去年の冬、わたしは学校の窓から飛び降りた。しぬつもりで飛び降りた。
病院を退院してから数日。
学校にも行けず、家にいても落ち着かず、目的もなく外を歩き回っていることが多かった。
わたしが目を覚ました時、後遺症はあったものの命だけは助かった。それだけでいいと両親は泣いていた。
けれど、言葉通り助かったのは命だけで、心はもう救いようがないほどに壊れていた。
両親には散歩だと言って出てきたけど、本当は次のしに場所を探しているだけ。
一度死のうとして、失敗して、今まで通りに生きていけるわけがなかった。
この心の欠けている部分は、きっと死ぬことでしか埋められない。根拠もなくそう感じていた。
ふと耳に入った学校のチャイムの音に視線を上げる。
そこには一年ぶりに見る中学校があった。
校門からは懐かしい制服を着た男女が次々と出てくる。
もう下校時刻なんだ。
日の暮れかかっている辺りを見渡しながらそんなことを思った。
「早く出ろー！門閉めるぞー！」
ひときわ大きい男性の声が耳に入る。それに続いて、間延びした女の子たちの返事が聞こえた。
何となくそちらに視線を向ける。
すると、教師と思わしき男性がわたしの方を振り返った。
夕陽に照らされたその顔は忘れもしない、去年のわたしの担任だ。
先生は目を見開いて、徐々に顔をこわばらせていく。
わたしはそれに背を向けて駆け出した。
足が思うように動かないけど、ただ走った。
陽が落ちて、薄暗くなった住宅街の中の小さな公園に入ってやっと立ち止まる。
そこで、途端に足から力が抜けて、その場にへたり込んだ。
苦しい、苦しい、苦しい！
わたしはしにたいぐらい辛い思いをしていたのに、いじめを見て見ぬふりをしたあの担任は今ものうのうと生きている。
許せないという思いと、宛てのない虚しさが湧き上がってくる。
わたしを見捨てたあいつは今も普通に仕事をして生徒に慕われて生きているのに、今まで真面目に生きてきたわたしがこんなに辛い思いをするのはどうして。
こんなにも不公平なことがあっていいの？
心の欠けていた部分から一気に崩れていくみたいで、その場にうずくまって自分の体を抱きしめた。
誰か、助けて。
「あの、大丈夫ですか？」
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作者名：芳野 | 作成日時：2023年3月31日 23時
