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袖から覗くのは、自分の中指の先だけ。それに気付いた瞬間に、Aは顔が火照るのを自覚するほかなかった。
ふっ、と。隣から小さく笑い声が聞こえる。
「……なんか、ええなぁ」
もう、ほんとやめて。その目でこっち、見下ろさないで。
文句は当然、声に出ることはない。
いつもは見えない引き締まった腕とか、隠れていた小さいピアスとか。
そんな一つ一つが、何というかひどく眩しく見えて。Aはぶかぶかのフードを目深に被って、強引にシャットアウトした。
楽しそうな笑い声が耳に届く。
『……』
一体いつから。
いつからこんなにも、引き込まれていた？
足元が覚束ない、しっとりと濡れそぼった空間で、Aはどうしようもなく突っ立っていた。
「……お、上がったみたいやで」
いつの間にか雨は上がっていた。それに安心したような、少し寂しいような。
再び歩き出した二人は、Aの家へと向かう。結局ゾムは、彼女の自宅まで送り届けてくれた。
『……これ、洗って返すね』
「そうか？ なら、頼むわ」
『うん。じゃあ、気を付けてね』
平静を装って手を振るが、ゾムは動こうとしない。
何か言いたいことでもあるのか、ゆらりと身体を揺らして。
『……！？』
「――なぁ」
掠れた低い声が、耳のすぐ傍で聞こえる。
ずい、と詰め寄ったゾムは、身長差を埋めるように屈んでAの顔を覗き込んだ。
「ここまでアピってんねんから、もう分かっとるよな？」
『……っ』
ひゅ、と息が詰まって言葉が出ない。ぎゅう、と心臓が握られた気分だ。
見れないでいたその瞳を見返せば、変な顔をした自分が映っていた。きっと彼も、そんな私を見ている。
「ひひっ……その顔なら、良い返事が聞けそうやな。でもまぁ――」
『……』
「――その答えは、また今度聞くことにするわ」
なに、
そうやって言い返すことが出来るほど、Aには心の余裕がない。
彼はついぞ、Aに触れることはなかった。彼女の自宅の玄関先で、あろうことか超特大級の爆弾を残していった悪い男。
その爆弾の上手な処理の仕方を、Aはひとつだって持ち合わせてはいない。
『……。あ、今日の荷物』
家に入るなりベッドに倒れ込んだAは、"フィリアス"に届けられたはずの荷物を取りに、いそいそと家を出た。
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江之子(えのこ)(プロフ) - あんりさん» コメントありがとうございます。自分でもこの設定好きです(笑) これからもよろしくお願いします！ (2020年5月15日 12時) (
レス) id: f1826b23af (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ピヨさん» コメントありがとうございます。どちらも楽しんで頂けて私も嬉しいです。是非最後までお付き合いください！ (2020年5月15日 12時) (レス) id: f1826b23af (このIDを非表示/違反報告)
あんり - ひいぃ...好き...もう少し続くとの事なので楽しみに待ってます！ (2020年5月15日 8時) (レス) id: 4620368618 (このIDを非表示/違反報告)
ピヨ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。本作品を最初からrbロ編とzム編を全て読んだのですがどちらの物語もとても面白くて、設定も個人的にとても好みで最高でした。完結まで楽しみにしています。 (2020年5月10日 8時) (レス) id: 3ec25a42f9 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 豆腐の中の棒人間さん» コメントありがとうございます。確かに言い回しは沢山考えて練っている部分ですので、褒めて頂けると嬉しいです！実はご作品の「転生者は…」を密かに楽しませてもらってます。お互い頑張りましょう！ (2020年5月6日 0時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年4月20日 23時
