理由なんてない−１ ページ47
「え、仕事、決まったの？」
「うん、今日面接に行ったんだけど、来週から来て欲しいって」
涼し気なガラス製のお皿に盛った夏野菜の焼きマリネ。結弦くんがさっきからプチトマトばかり食べるから、私はお皿に残っているパプリカを箸で摘まむ。
勤務先に決めたのは、仙台市内にある電機メーカーの社員食堂で、土日休み、九時から十五時までで週三回。栄養士としてメニューを考えたり、調理をしたりする仕事だ。
わりと時給がいいし、家からも近く、家事も十分できる範囲。
「べつに無理して仕事しなくていいのに……」
結弦くんが不満げに唇を尖らす。
生活費のことなら気にしなくてよい、何度も結弦くんには言われている。私がする家事に対する正当な対価だって。
すごくありがたいけど、自分に必要なものぐらい自分で買いたいし、いつかここを出ていくときまでに貯金もしておきたい。―――そう結弦くんに返すと、ちょっぴり不機嫌な顔をされる。
「しんどくなったら、やめていいからね」
「うん、ありがとう」
真面目に言う結弦くんに、私も真面目に返事するけど……これぐらいで体調を崩すほどか弱くないんだけどな。
―――は？ 俺がショーを頑張っているときに飲みに行ってたのかよ？
結弦くんがアイスショーから帰って来た日。
男の人と夜歩いていた理由を説明した私に降ってきた結弦くんからの言葉は、私を驚かせた。言った本人の結弦くんも、びっくりしていた。
でも、結弦くんには私を責める資格があると思う。
アイスショーであれだけの演技をするためには、どれだけの練習を積めばいいんだろう。私には想像もつかない努力と時間をかけているに違いなくて。彼が観客のために懸命に頑張っている間、そのショーの出演料で生活している私が遊び歩いていたら、いい気がしないのは当然だ。
すごく申し訳なくて、愛想を尽かされてもしょうがないって思った。
だけど、次の日の朝、謝ってきたのは結弦くんのほうだった。
しどろもどろになりながら、それでも言葉を選んで、真摯に話してくれる結弦くんは……オリンピック二連覇とか、トップスケーターとか、そういう肩書とは関係のない、普通の男の人で。一生懸命、私と向き合おうとしてくれているのが伝わってきた。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
