仮面−9 ページ43
<Yuzuru Side>
「じゃ、またな」
ショーが終わり、出演者たちが解散する中、刑事に肩を叩かれる。
「うん、また」
短い挨拶でも、互いに頑張ろうという気持ちは伝わっている。
年齢が上がるにつれて、同期も減ってきて。今回のショーも周囲は十代の子ばかりだ。
キラキラした目でスケートの質問をしてくる後輩たちを見ていると、自分にもそういうときがあったよなって、感傷に浸ってしまう。……俺もおっさんになったってことか。
公演中、スケート以外の質問だと何人かに「彼女いますか?」って聞かれた。
若い子らしい遠慮のない天真爛漫さだと鷹揚に構えて適当に返事したけど、みんな興味あるんだな。俺が十代の頃は先輩の恋愛事情なんて気にしてる余裕なかったけど。
仙台へ戻った俺はマンションへ帰る前に、実家に寄った。
「これ、お土産」
ちょうど在宅していた姉に横浜で購入したお菓子を渡す。
「ありがとう。お茶でも飲む?」
「うん。―――ねぇ、結婚って話進んでるの?」
キッチンでお湯を沸かす姉に向かって、俺は問いかけた。
「おかげさまで。ちょうどよかったわ、結納の日取りが決まったの。ゆづも出席してね」
「ん、わかった」
姉の晴れやかな笑顔に、俺は胸をなでおろす。婚約者の親族からの俺に対するあらぬ誤解は解けたらしい。
「ゆづのほうはどうなの? Aちゃんとうまくいってる?」
お茶を淹れてもらい、二人で向かい合ってテーブルに座る。
「うん、うまくいっているよ」
「そう、ならいいけど……」
どこかもったいぶった返答と、姉の形容しがたい表情に俺は引っかかりを覚えた。
「いいけどって、なに? なんかあんの?」
「……うん……」
「Aのこと? だったら、言ってよ。気になるじゃん」
頭をよぎったのは、本当の恋人ではないとバレたかということだった。けど、姉の返答は予想を上回るものだった。
「実はね、三日前、会社の人とご飯を食べに行ったんだけど、その帰りに……その、Aちゃんを見かけたのよ。男の人と一緒だった」
「……男……?」
見た目が緑茶なのに、飲んだらコーヒーだったような。氷の上を滑っていると思っていたら、砂地に足を捕らわれたような。言われた事実を脳が追いついて理解するのに、時間がかかった。
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エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね?今後も楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして!斬新な設定にわくわくしています^^ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです!更新頑張ってください! (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年7月10日 18時