契約−４ ページ23
「―――それでは、失礼します」
「Aちゃん、仙台に引っ越して来たら、こっちにも気軽に遊びに来てね」
「はい、ありがとうございます」
玄関まで見送ってくれたお姉さんと話をしていると、
「Aさん」
改まった調子で、お母さんが声をかけてきた。
「結弦は置かれている環境も立場も特殊だし、なによりこの子自身がスケートのことになると周りが見えなくなる。世間一般の生活は難しいから、Aさんに我慢をさせることも多いと思う。不安や心配事を一人で抱え込まずに、いつでも相談してちょうだい」
沁み入るような笑顔で私を見つめて、「結弦をよろしくね」と私の両手を優しく包んでくれる。
違うんです、私はお金のために結弦くんの恋人役を引き受けただけ。
だから、不安になることも、心配を抱えることもないんです。
「大丈夫だよ。俺がちゃんと大切にするから」
いっそ、真実を打ち明けてしまおうかと思った私を押しとどめるように、結弦くんが私の肩に手を置いた。
「さっきの仕事ってなに？ ぶち壊す気？」
二人きりになると、すぐに結弦くんの叱責が飛んでくる。
「え、いや……つい……」
「マジで気をつけてよ。前も言ったけど、うちの家族は勘が鋭いから。A、嘘が下手っぽいし、家族とあまり接点持たないで」
「……お姉さんとLINE交換しちゃった……」
「はあ？」
結弦くんがトイレで席を立ったときに。断る理由なんてなかったし。
「姉ちゃん、油断も隙もない」
「それだけ結弦くんのことを心配してるってことでしょ」
二十六歳という年齢を考えると、過保護な気もするけど、こんなに可愛くて出来た弟がいたら、心配しつくしても足りないよね。
「まーいいや。とりあえず、一番の難関はクリアしたし。マンション、決めてくれた？」
「うん。後でLINEに送っておくね」
「今日は、ありがとう。気を張って疲れたよね、ゆっくり休んで。細かいことはまた電話で決めよ」
「うん、結弦くんもお疲れさま」
「あとさ……」
「なに？」
私は、帰りの新幹線は何時があるかな……と考えながら、結弦くんを仰ぎ見る。
「今日の恰好、可愛いね。似合ってる」
「へ？」
急に褒められて、一瞬キョトンとしたけど、すぐに顔に熱が集まる。
「あ、ありがとう……」
ただのお世辞だから、笑って流せばいいのに……。結弦くんの顔を直視できなくて、私は新幹線の時間を調べるふりでスマホに視線を移した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 174人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - MERさん» MERさん、ご指摘ありがとうございます。気を付けます (2021年7月14日 23時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
MER - 所々美百合さんになってますよ (2021年7月14日 22時) (レス) id: 39acd1ff39 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、初めまして。コメントありがとうございます。わくわくするって感想、とても嬉しいです♪羽生さん、大人っぽいですかね？今後も楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月12日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - はじめまして！斬新な設定にわくわくしています＾＾ここの羽生さんはとても大人っぽいですね。大人な羽生さん大好きなので、嬉しいです！更新頑張ってください！ (2021年7月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年7月10日 18時
