とある少年の独白 ページ37
.
彼女はまるで、太陽だった──……。
***
「ハァ、ハッ、くそ、くそクソクソ……!」
「ギャハハハ! 無駄だ無駄、どこまで逃げても無駄だよォッ!」
いくら走っても、後ろから追いかけてくる鬼を振り切れない。
持久戦になってしまった時点で俺の負けだ。どんなに鍛えていても体力で鬼には勝てない。いずれ追いつかれて──俺は、死ぬ。
(嫌だ、嫌だ嫌だ! 死にたくない、死にたくない、俺はまだ──!!)
こんなことになるなら、刀を取らなければよかったのだろうか。敵討ちなんて考えなければよかったのだろうか。死にたくない、生きたい、父ちゃん、母ちゃん、ごめん、ごめんなさい──
「ッ、アア゛!」
木の根に躓いたところを襲われ、肩を引き裂かれる。せめてもと握っていた刀も手放してしまい、俺は涎を垂らしたそのバケモノが迫ってくるのを、ただ眺めている他なかった。
刹那。
「鬼ごっこはもう終わりかァ? それじゃア……いっただっきまー、」
「──灯の呼吸、壱の型」
ズルリ、と醜い鬼の頸が落ちる。
「──灯滅灼然」
長い豊かな黒髪が、剣技に合わせてふわりと舞う。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
月明かりを背に手を差し伸べる彼女の相貌は、控えめに言っても整っていた。今は最終選別の五日目。泥や汗による汚れはあっても、彼女にはかすり傷一つ見当たらない。つまりはそれだけ、彼女が強者であるということだ。
(俺より、年下の女の子なのに……)
「! 怪我をしていますね、少し待ってください」
袂から取り出したのは軟膏か。手慣れた動作で俺の怪我の手当てを終えると、彼女は俺の手を引いて立たせた。
「近くに……とはいきませんが、しばらく歩いた所に、数人で固まって過ごしているんです。怪我が酷くて単独での鬼の相手が難しいようでしたら、案内します。どうしますか?」
「あ、た、頼む」
「分かりました。私に付いてきてください」
彼女は強かった。俺の血の匂いを嗅ぎつけて襲ってくる鬼たちを、最小限の動きで仕留めて、また悲鳴が聞こえてきたら助けに行った。
案内された先には、同じように彼女に助けられた奴らが集まっていて。交互に休憩と警戒を繰り返して、また彼女に守られながら、俺たちは残りの二日間を生き残った。
八日目の朝、俺らは揃って彼女にお礼を言った。そしたら彼女は……。
「こちらこそ。生きててくれて、ありがとうございます!」
──そう、太陽のように笑ったんだ。
322人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ドジ猫(プロフ) - 絵宙(えそら)さん» 一応、炭治郎の髪ってことで炭治郎本人は数に入れてないです! わかりにくくてすみません!汗 (2020年3月30日 6時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
絵宙(えそら) - ページ5の「込められた想い」では、弟の数は、茂、六太、竹雄、炭治郎(漢字が違うかもしれません)で、四人だと思います。細かくてすいません。これからも頑張ってください!楽しく読ませていただいてます! (2020年3月30日 3時) (レス) id: 63faa5bcfc (このIDを非表示/違反報告)
由亜(プロフ) - とっても面白いですね!一気に読んじゃいました。寝転びながら読んでたんで、シーツの一部分になみだのしみが・・・(泣きました)これからlet's続編で御座います!面白い小説を有難う御座いました (2020年2月24日 4時) (レス) id: d2128f7714 (このIDを非表示/違反報告)
タートル(プロフ) - 失礼致します!面白くて一気に読んでしまいました!私も鬼滅のお話を書いているので良かったらお越しください。 (2020年2月19日 20時) (レス) id: 77bb05bd52 (このIDを非表示/違反報告)
ドジ猫(プロフ) - なるは。さん» ありがとうございます!嬉しすぎて顔がにやける……!これからもよろしくお願いします!! (2020年2月16日 22時) (レス) id: a192f6ddb7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ドジ猫 | 作成日時:2019年12月19日 0時