Mirage 2 (ページ11)

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「…裕太！」

店内に入ってきた姿をみつけて、名前を呼びながら手を振ると裕太がこっちに向かって来る。

「初めまして。横尾です。」

横尾さんが席を立って丁寧に挨拶をすると裕太も同じようにかしこまって頭を下げた。

「うわぁ…Aちゃんの幼馴染、イケメンだね。ちょーモテそう」

「…え！？いや、全然…」

横尾さんに言われて照れ臭そうに答える裕太につい笑ってしまう。

「たしかにタマはモテてたよなぁ」

「…いやいやいや、中高でアイドルみたいにモテまくってたミツに言われてもお世辞にしか聞こえない」

「ミツ、そんなにすごかったんだ？」

北山先輩に裕太が言い返して、それから横尾さんが訊くと先輩は何も答えない。

「…すごかったですよ、ほんとに。ね？」

同意を求めるように裕太の方を向くと「うん」と頷く。

「Aなんて、毎日まいっにち、北山先輩北山先輩、って。うるさかったですもん。まあ今もだけど」

ねえ？と、裕太が悪戯っぽく笑いながら私の方に顔を近づける。

「…うるさいなぁ」

裕太の頬をつまむと「いったい」って言いながらやり返そうとしてくる。

「…本当に幼馴染なんだねぇ」

関心したように横尾さんが「仲良しすぎでしょ」と続ける。

「仲良かったことなんて一度もないです」

私から距離を取るように座り直しながら裕太が言うと、北山先輩が吹き出すようにして言った。

「…タマ、嘘つくのへったくそ」

先輩が見せた笑顔に、どうしようもないくらい動揺してしまう。

泣き腫らしたような目が、優しく私と裕太をみつめていた。

「…ごめんなさい、」

思わず席を立ち、その場から離れた。

お手洗いに向かう途中の廊下で立ち止まり、壁に寄りかかる。

北山先輩の笑顔が頭の中から離れなくて、ぎゅっと目を瞑った。

衣月先輩のことを今でも想っている北山先輩のことを、私はやっぱり変わらずに今でも好きで、そしてそのことに罪悪感や後ろめたさをおぼえていることを嫌でも思い知らされて、苦しい。

北山先輩に会わなければ、そのうちに忘れて何とも想わなくなるのかもしれない、だけど、もう今の私にはそれを想像してみることすら怖かった。

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