風香る季節 ページ11
スープが加わっただけで朝食とさほど変わらない昼食にAは内心苦笑したが、凛月にとってはこれが今日一番の食事なのだから仕方がない。
「ええー、外いくの？」
昼食後、腹ごなしにとAは凛月の手を引いて庭に連れ出した。彼は乗り気でないようだったが、このまま放っておくとまた眠ってしまわれるだろう。
戸外へ出ると今更引き返せないと思ったのか、凛月は観念してついてくる。
「ちょっと、そんな引っ張らなくてもついてくから」
あきれたような視線を感じたが、気にしない。
Aが大きな木の元まで彼の手を引いていくと、
「おー、いい木陰」
と言って木の幹に凭れるようにして座るので、Aもその隣に腰を下ろした。薄薔薇色のドレスに馬の長い尾のような金髪の裾が落ちる。こんなところに座って、などと目くじらを立てる母もここにはいない。
「庭にこんなところがあったんだねえ」
凛月は生い茂った木の枝を見上げて言った。
「知らなかったの？」
長くここに住んでいるのに、とAが首をかしげると
「俺はそんなに外に出ないからねえ」
と凛月は目を細めた。
それを聞いてAは益々不思議がった。
Aは実家の庭の中で知らない場所はない。というのも、『お姉ちゃん』、もといすぐ上の兄の手を引っ張って行って庭のあちこちで遊んでいたからだ。
乙女の心を持った『お姉ちゃん』よりも凛月の方がよっぽど女性のような白さも細さも持っているのに、凛月の手を引いて歩くと、まるで百年を生きた老父の手を引いているような心地がした。肌のしわも骨の古さもないのに、不思議だ。
「心が女なら性別は関係ない」などと『お姉ちゃん』は言っていたけれど、心がおじいちゃんなら年齢は関係ない、のだろうか。
凛月は自由の翼を得た少女のように顔を輝かせているAの横顔を見て、そっと目を閉じた。瞼の裏に優しい木漏れ日が見える。
眩しかった。
舞踏会の会場で初めて会った時も、彼女は天からの使いのように輝いていた。
無垢で純粋で、何も知らなくて、ああなんて残酷な少女だろう。
いつかこのはじけるような若さは失われていくのだ。
早く大人になってしまえば手もかからなくて楽なのに、まだもうしばらくこの蕾を見ていたいという気持ちもあって、凛月の心境は複雑だった。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
