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さらり、と柔らかな布を掴むと、Aはそれを引いた。
それでも、陽の光は布越しに柔らかに入ってくる。Aが家から連れてきた側近の者達は今日は戸外で庭の手入れをしていた。
彼の寝顔を見ているのは今のところ飽きないが、自分もうたた寝をしようかと思ってソファーへ向かおうとすると、うう、と低い唸り声がした。
「……ソファー行くなら俺もつれてって」
Aはまさに幽霊でも会ったかのような驚いた顔で振り向いた。
戦いのとき以外は王都で遊び暮らしていた父だが、そんな事を言ったことは一度もないし、いくら瞼の重い昼間だって椅子に座っている時に姿勢を崩した所は見たことがない。
今にも椅子からずり落ちそうなこの男に、Aはどうしたら良いのかと戸惑いながら近づくとふわりと腰へ抱きついてきた。
眠いながらにくるくると思考を巡らせていたAの頭は、ここで一瞬、ものを考えることを忘れた。
「ああ、いきなり何ですか！？」
「……自分の嫁に触れたらいけないの……？」
あくび混じりに彼はそう言うと、体重をこちらへ預けてくる。
Aの目に困惑の色がうかんだ。Aだって、今日ばかりは歩くのすら面倒だった。
ずっと布団の中で寝ていたかったが、なんとなくそれは自分の中では許されない。時間になったら起きるものだ。
この状態で再び眠りにつかれてはさすがに困ってしまうので、Aは子猫を持ち上げるようにして自分より大きな彼の身体を支えると半分引き摺るようにしてソファーへ運んだ。
重心を己のところへ保っていない人間の身体は重い。
「少しは自分の足で歩いてくださいな」
「やだ、むりい……」
これから先の自分の人生を思うと、ため息が出そうになった。
ソファーへ辿り着くと、そこへ彼を寝かせた。仕方ないがAは別のところで少し眠ることにする。
義兄――もとい朔間家の年齢不詳の当主――からの贈り物であるこの深緑色のソファーは、Aの知っているものよりも柔らかく、寝かせた瞬間に身体が少しだけ沈んだ。
弟の昼を過ぎても寝る癖を気づかってだろうか、と思うと、Aは自分の『お姉ちゃん』が自然と思い出される。この屋敷には彼女――彼からのものも含め祝の品が多く飾られていた。
Aに弟はいないが、弟みたいに大切にしていたある人の婚儀のときには何か心のこもったものを贈ろうか、などと彼女は考えた。
「ねえ、どこ行くの？ 膝、貸してよ」
「え、ええ」
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
